2008年3月22日(土)
訳者の副島隆彦氏は、本書の2人の著者をこう紹介している。
ジョン・J・ミアシャイマー氏はシカゴ大学政治学教授、スティーヴン・M・ウォルト氏はハーヴァード大学行政大学院教授で、2人は「国際関係論の分野では、すでに世界的な権威と呼ばれている学者であり、欧米世界の政治知識人の間では知らぬ人のいない大学者」であり、「現在の米国を代表する超一流の政治学者」だという。そのような名声をもつ学者たちだからこそ、「アメリカ合衆国の建国以来の最大のタブー」である「イスラエル・ロビー」批判のこの書を出版することができたのだろう。はたして2人の論文に対してユダヤ系アメリカ人団体は、「反ユダヤ主義」「事実誤認が甚だしい」という激しい非難を浴びせた。著者たちがその批判で四面楚歌と孤立無援にあったとき、救援にかけつけたのが、高名な大学教授で、『文明の衝突』の著者、サミュエル・ハンチントン氏だった。
本書で2人が主張していることを要約すればこうなる。
「米国はイスラエルに対して、これまで多大の支援を行なってきたが、それは米国内の〈イスラエル・ロビー〉と呼ばれる諸団体や個人の連合体が、米国政府に無理強いし、過度に働きかけて実現させたものだ。そのために米国の外交政策が米国の国益(ナショナル・インタレスト)に適ったものとならなかった」
「イスラエル・ロビーが米国の外交政策決定過程において異常とも思えるほどの影響力を持っている。そのためにアメリカの外交政策が極度に親イスラエルに偏向した結果、米国は“世界の嫌われ者”となってしまった。つまり〈イスラエル・ロビー〉が米国の外交政策を大きく誤らせたからだ」という主張である。
では本書の内容を「序文」から、その要点を紹介していこう。
まず〈イスラエル・ロビー〉とは、「イスラエルを利する方向に米国の外交政策をむかわせるべく、影響力を行使している諸団体や個人の緩やかな連合体」のことであり「米国がイスラエルを無条件に後押しするように促す。それに加えて、彼らは米国の外交政策が形成される際に重要な役割を果している」というふうに著者は定義している。
その〈イスラエル・ロビー〉が力を立証した最近の典型的な例として、2006年夏の第二次レバノン戦争、イラク戦争への影響力で米国の国益を損なった実例、さらに元米大統領ジミー・カーターの著書『パレスチナ問題─アパルトヘイトではなく平和を』に対する圧力など挙げられる。
次に「はじめに」から。
2008年の大統領選挙の候補者たちが「誰がユダヤ国家を守ることができるかについて競っているかのように見えた」と在米ユダヤ系の新聞が報じている。
例えば、ヒラリー・クリントン候補は07年、〈イスラエル・ロビー〉の中でも最も力のある米国イスラエル広報委員会「AIPAC」の会合で、「重要なことは、私たちが自分の友人や同盟国の側に立って行動することであり、私たちの価値観を守ることです。イスラエルは中東地域に立つ、何が正しいかを示す灯台のような存在です」と言い切っている。
著者はその理由を「〈イスラエル・ロビー〉の政治的な力を恐れているからなのだ」と言う。「民主党も共和党も等しく〈イスラエル・ロビー〉の勢力を恐れている。大統領選立候補者は〈イスラエル・ロビー〉が推進したいと願う政策を批判しようものなら、大統領になるチャンスが潰れることをよくわかっているのだ」
「世界の国々の中で、イスラエルだけが米国の重要な政治家たちから尊敬と服従的な態度を受け続けている」理由として、一般的に言われるのは以下の点である。
イスラエルは米国にとって戦略的に非常に役立っている、つまり“戦略的な資産”であるという主張。その象徴は「イスラエルはテロとの戦争において米国のかけがえのないパートナーである」という主張。
イスラエルが中東で唯一、米国と価値観を共有している国だから、という主張。
これらの主張に対して著者はこう反論する。
米国政府とイスラエル政府との間に緊密な関係が存在することによって、米国を攻撃目標としているテロリストたちを倒すことがより困難になっている。
冷戦が終結した現在、イスラエルは米国にとってむしろ“戦略的なお荷物”になっている。
米国とイスラエルとの間の無批判かつ不変の関係について、人々を納得させるだけの人道的な根拠は存在しない。
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