2008年4月18日(金)
『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の要約(1) から、ずいぶんと時間が経過してしまったが、今日から再開し、断続的にでも続けていこうと思う。この本は内容が濃いため、一度読み通しただけでは、衝撃は受けても、自分の血肉とすることは難しい。要点を書き写し反芻することで、いくらかでも内容を血肉化したいという思いからである。気が遠くなるような時間のかかる作業になるが、それだけの価値のある凄い本である。
「はじめに」からの続き
- 〈イスラエル・ロビー〉の目的は、イスラエルの主張を米国内に広めること。
- 〈イスラエル・ロビー〉を構成している諸団体は、「米国とイスラエルとの関係が特別なものとなるように関係強化を促進したい」という願望を共有している。
- 大統領選立候補者は〈イスラエル・ロビー〉が推進したいと願う政策を批判しようものなら、大統領になるチャンスが潰れることをよくわかっている。
- 米国が中東に関与していく理由は、当初は石油だった(40年代半ばから)が、後に反共産主義(52年にトルコがNATOに加盟、55年の“反ソ”を目的とした“バクダッド条約”など)、そして〈イスラエル・ロビー〉との深いつながりへと変化していった。
- それは、第三次中東戦争(67年)、ソ連からアラブ各国への武器売却、米国内での親イスラエル派諸団体の影響力の伸張などの状況の変化による。
- イスラエルの利益になるように実行された多くの政策によって、米国の国家安全保障は危機に晒されている。米国のイスラエルへの惜しみない支援とイスラエルによるパレスチナの長期占領により、アラブ・イスラム世界全体に“反米主義”が拡大していった。
- このような状況になってしまったのは〈イスラエル・ロビー〉の活動のせいである。
- どの民族ロビー団体も、米国の国益とかけ離れた方向に政策を転換させようとはしない。だが、〈イスラエル・ロビー〉は「米国とイスラエルの利益は根本的に同じである」という主張をもとに、多くの米国人を説得することに成功している。しかし米国とイスラエルの利益は同じではない。
- 米国がイスラエルに入植地建設の中止やパレスチナ独立国家の建設を説得していたら、現在、イスラエルが直面する状況はよりよいものとなっていただろう。だが米国政府はそうしなかった。イスラエルに圧力をかけるという試みが歴代の大統領にとって、政治的な損失が大きかったからだ。
- 〈イスラエル・ロビー〉に属する諸団体は、カーター(元大統領)の名誉を傷つけるような薄汚い攻撃を始めた。カーターが著書の中で、イスラエルのパレスチナ占領地域での政策を南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)になぞらえたからだ。またカーターが「親イスラエル派諸団体の存在によって、米国の指導者がイスラエルに圧力をかけて和平を達成することが困難になっている」と公言したからでもある。
- 〈イスラエル・ロビー〉の努力にも関わらず、米国人の約40%が、自国のイスラエルへの支援が、世界中に広がる反米主義の1つの要因となっていると認識している。
- 全米世論調査(06年10月)では、回答者の39%が「イラク戦争開戦とイランとの衝突に関して、〈イスラエル・ロビー〉が米国議会やブッシュ政権に工作したことが要因となっていると信じている」と答えた。回答者の66%が「〈イスラエル・ロビー〉が米国の外交政策に与える影響は大きすぎる」という一文に同意したという。
- 「下院議員のうちおよそ半分、250から300人の下院議員たちは、AIPAC(「米国イスラエル広報委員会」/イスラエル・ロビーの中核をなす団体)が望むことなら何でもやる人々である」(ジャーナリストのマイケル・マッシング)[P.32]
- 「私たちAIPACは,24時間以内に、この紙ナプキンに70人の上院議員たちの署名を集めることができる」(AIPACの元職員)[P.32]
- 〈イスラエル・ロビー〉の活動とその結果に疑問を呈することは、イスラエルの正統性自体に疑問を呈することと同義と考えられている。イスラエルの支持者の多くは、イスラエルに対する悪意のない批判についても、イスラエルの存在に対する明らかな挑戦であるととらえている。
- ユダヤ人の多くはイスラエルに対して強い思い入れを持っている。そうした人々は、イスラエルが、ナチスによるユダヤ人大量虐殺からの避難民のための安息の地としての役割を果し、現在ユダヤ人としてのアイデンティティーの中心であると考えている。そう考えると、ユダヤ人がイスラエルの正統性や存在そのものが攻撃されていると考えた時に起す、敵意むき出しの防御的な反応は当然のことと言える。
- 反ユダヤ主義的非難のもとになっているのは、「ユダヤ人たちが銀行、メディアその他の産業をあやつることで、彼らの人口とは不釣合いなどほどの影響力を行使している」という主張である。したがって、もし誰かが「米国内のメディア報道はイスラエルに対して好意的である」と発言したなら、その発言は「ユダヤ人がメディアをあやつっている」という古い作り話と同じように考えられてしまう。また、もし「ユダヤ系米国人は慈善活動と政治的な信念に資金を出す伝統がある」と発言したなら、その人は「ユダヤ人が金を出して不正に政治的な影響力を買っている」と主張しているかのようにとらえられてしまう。
- 親イスラエル派の諸団体や個人についての議論がより難しくなっているのは、古くから“二重の忠誠心”という非難の方法が存在するからだ。イスラエルを支持しているユダヤ系米国人が持つ恐怖とは、米国に対して忠誠心を持っていないと見られてしまうことだ。
「ユダヤ人たちはイスラエルを支持することで、米国に対して愛国的ではないと言われると、心の底から恐怖心が湧き上がってくるのだ」(米国ユダヤ委員会の元幹部)[P.37]
本書でやり遂げられるべき3つの仕事
- 米国はイスラエルに対して並外れた物質的な援助と外交支援を与えていること
- 〈イスラエル・ロビー〉の存在が米国のイスラエル支援の主要な理由であること
- このような無批判かつ無条件の支援を続ける関係は米国の国益に適っていないこと
という3点を理解してもらうこと。
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