2008年4月19日(土)
【第1章】アメリカという大恩人
- 米国の援助は長引いた「アラブ・イスラエル和平プロセス」において、いくつかの成功を導く上で最も重要な要素だった。なぜなら、キャンプ・デービッド合意、あるいはエジプト、ヨルダンとの平和条約などの諸合意は、米国の支援増大の約束を見返りとするものだったからである。[P.52]
- イスラエルがどのくらい優遇されているかを端的に示す指標がある。それはイスラエルが米国の納税者から受け取ってきた外国援助の合計金額である2005年時点で、米国のイスラエルへの直接的経済・軍事援助は、ほぼ1540億ドル(18兆4800億円、以下邦貨換算は1ドル120円での概算)に上る。その大部分は借款(ローン)ではなく直接援助金である。[P.52]
- イスラエルの軍事上の安全保障に対して、目に見える形で米国の態度が変わったのはケネディ政権が最初だった。(中略)それはソ連によるエジプトへの武器売却との均衡を図りたいという要求とイスラエルの核保有の要求を宥(なだ)めること、さらにイスラエルの指導者たちに米国の和平構想に好意的な態度をとらせるようにすることだった。しかしこの戦略的配慮以外にも、決定的な役割を果したものがある。それは技巧に長けたイスラエルの外交であり、何人かの親イスラエル派補佐官たちの影響であり、そしてユダヤ人有権者や大口の政治献金を行う人々からの支持を失いたくないというケネディの無理もない思惑なであった。[P.55]
- イスラエルは現在、年平均で30億ドル(3600億円)の直接的な対外援助を米国から受け取っている。その額は米国の直接的対外支援予算のおよそ6分の1であり、イスラエルのGDPの約2%に相当する。イスラエル国民1人当たりでみると、年間500ドル(6万円)を超える支給額だ。2位のエジプトでも1人当たりわずか20ドル。米国の支援の約75%は軍事援助。[P.56]
- イスラエルが米国の経済援助需給国の中で、援助金の使途を説明する必要のない唯一の国である。(中略)イスラエルは直接かつ一括で現金を受け取っている。この免責のおかげで、たとえばヨルダン川西岸の入植地建設といった、米国の意図に反する目的に援助金が使われることを防ぐのは実質的に不可能となっている。[P.59]
- 政府からの援助金支給とローン保証に加えて、イスラエルは推定で年20億ドル(2400億円)の米国市民からの個人的寄付を受け取っている。
イスラエルへの個人の寄付金の多くは“米国・イスラエル間の所得条約の特別条項”により税が控除される。[P.61]
- 75年のエジプトとイスラエル間の撤退合意の一環として、ヘンリー・キッシンジャー国務長官は、米国によるイスラエルへの石油を保証した。[P.64]
- エジプトとヨルダンは、米国の対外援助額が2番目と3番目。このお金のほとんどは“よい行い”、とくにイスラエルとの平和条約に進んで調印したことに対する報酬とみるべきである。
94年のフセイン国王の平和条約調印に対する報酬として、ヨルダンが米国に負っている7億ドル(840億円)の負債を棒引きにした。
このように米国が、エジプトやヨルダンに好んで報酬を与えていることは、米国政府のユダヤ国家への気前のよさを示すもう1つの別の形の表れなのである。[P.64−65]
- 今日では米国の支援の大部分が、中東でのイスラエルの軍事的優位を保つことに関わるものである。
米国とイスラエルの軍事的な結びつきは、80年代により高度なものとなった。レーガン政権が中東地域で反ソ連の“戦略的結束”をつくりあげようとする作業の一環だった。
- 米国は長期にわたって大量破壊兵器(WMD)に反対している。しかし米国はイスラエルの様々なWMD秘密事業(200以上の核兵器を保有していることを含め)には見ぬふりをすることで、イスラエルがこの地域で軍事的優位を保とうとしていることを暗に支持してきた。米国政府は十数カ国に対して、68年の核拡散防止条約(NPT)に調印するように圧力をかけてきた。しかし、イスラエルには核開発計画を止めて条約をに調印するように、という圧力をかけていない。[P.70]
- 68年CIAのリチャード・へルムズ長官がホワイトハウスにやって来て、ジョンソン大統領にこう告げた。
「CIAは、イスラエルが事実上核能力を手にしたとの結論を出しました」。このときジョンソンはヘルムズに、国務長官ディーン・ラスクや国防長官ロバート・マクラマラも含めて、他の誰にも証拠を見せないように念を押した。ジャーナリストのセイモア・ハーシュは『サムソン・オプション』でこう記している。
「大統領がヘルムズ長官をどなりつけて情報を握りつぶした目的は明らだ。CIAが伝えようとした内容を知りたくなかったのだ。この情報を受け入れれば、何らかの行動を迫られる。1968年には、ジョンソン大統領はイスラエルの核爆弾製造を止めるために行動をとるつもりはまったくなかった」(ハーシュ『サムソン・オプション』)[P.72−73]
- 03年イラクに大量破壊兵器を持たせまいとして戦争を始めた。同じ理由でイランと北朝鮮への攻撃を検討している。にもかかわらず、米国政府は秘密裡に大量破壊兵器開発を行っていることが露見している同盟国のイスラエルに対しては、長い間助成金を支給してきた。その国の核兵器所有が近隣諸国に大量破壊兵器獲得への強い動機づけを与えるような同盟国に、長い間助成金を支給してきたわけだ。このちぐはぐな対応を世界中の国々が見過すことはないだろう。[P.73]
- 「キャンプ・デービッド交渉(2000年7月)で提案されたイスラエルの考えは、文書に記載されることはなかった。それらは通常、イスラエルの考えとしてではなく、米国の考えとして提案されたのである」[P.92]
「米国は、最後には(しばしば知らず知らずのうちに)イスラエルの交渉の立場を提示することになってしまったのだ。また、イスラエルに対しては、それより下げていけない安値ぎりぎりの線を示すようになってしまったのである」(クリントン大統領の下でアラブ・イスラエル問題特別補佐官を務めたロバート・マレー)[P.92]
「あまりにも何度も、我われは……イスラエルの弁護士としての役割を果しすぎた」(アラブ・イスラエル問題の国務長官補佐官)[P.93]
- 米国がイスラエルに、これほど気前よくて制約のない支援をし続ける理由は、戦略上の利益によっても人道上の必要性によっても説明できない。[P.94]
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