2008年11月14日(金)
オバマ新大統領で、パレスチナ問題はどうなるのか──これは、11月4日のアメリカ大統領選挙で「変革」を訴えるオバマ氏が圧勝するニュースに世界中が熱狂するなか、これまでパレスチナ・イスラエル問題に強い関心を寄せ、現地の情勢を注視し続けてきた人たちが真っ先に頭に浮かべた問いにちがいない。『朝日新聞』(11月8日朝刊)は、オバマ新大統領下での中東政策についてエジプトの専門家のコメントを掲載している。アラブ開発未来研究センターの上級研究員のアマール・ショルバギー氏は、次のように述べている。
アラブ民衆の間にある「オバマニア」ともいえる熱狂は、彼が黒人で公民権運動の理念を体現していると考えているからだ。公民権運動は、パレスチナ解放を含む世界の人権運動と共鳴していた。
しかし実はオバマ氏の政治姿勢には公民権運動のこうした伝統は引き継がれていない。武力に訴えるカウボーイ流のブッシュ政権とは違うが、彼の立場は民主党の中で「真ん中の右寄り」だ。親イスラエル・ロビー団体の年次総会でイスラエル寄りの発言をしてパレスチナ人を失望させたが、私は驚かなかった。
中東和平では、パレスチナ問題より先にシリアとイスラエルの交渉に手をつけるだろう」
なぜ「彼の立場は民主党の中で『真ん中の右寄り』」で、「親イスラエル・ロビー団体の年次総会でイスラエル寄りの発言をしてパレスチナ人を失望させた」のか。
それを知る手がかりとして、やはり米政府の中東政策へのイスラエル・ロビーの影響力をきちんと把握しておく必要がある。
ショルバギー氏が言及するように、親イスラエル・ロビー団体(AIPAC:アメリカ・イスラエル広報委員会)の年次総会でのオバマ氏の演説は、「オバマ新大統領によってパレスチナ問題に明るい展望が開けるのでは」と期待するパレスチナ人や世界の人びとに、「それは幻想でしかない」ことを痛感させたにちがいない。もちろん、在米ユダヤ人の票と金が共和党以上に影響を及ぼすといわれる民主党の大統領候補が、イスラエル・ロビーからの選挙資金とユダヤ人票を期待した選挙前に行う演説なのだから、その内容がそのまま次期政権の中東政策となるとは考えにくい。しかし、それにしても、超大国の大統領候補が、日本の四国ほどの領土しかない中東の1小国とその支持ロビーにこれほどの媚を売らなければならないというアメリカ政界の現実に驚嘆せざるをえない。
私自身が翻訳したそのオバマ候補(当時)のAIPAC演説の全文をここに掲載する。一部内容が不明な点があるが、私が理解できる範囲での訳なので舌足らずの点があることをご了承いただきたい。
バラク・オバマ民主党大統領候補のAIPAC演説
(2008年6月4日・ワシントンにて)全米から集まったこれほど多くの友人たちにお会いできることは素晴らしいことです。まずハワード・フリードマン氏、デービッド・ビクトル氏、ハワード・コール氏、このAIPAC年次総会の成功と、ほんの2、3ブロック離れたところにある新たな本部の完成おめでとうございます。
話を始める前に、全米のユダヤ人社会に挑発的なメールが出回っていることを知っていると申し上げたい。何人かはそれを受け取っておられることでしょう。それは、ある大統領候補について信じられない作り話と恐ろしい警告に満ちています。私が申し上げたいことはただ、その男性の名前がバラク・オバマだとしたら、教えてくださいということです。私はそれにとても驚いているからです。
しかしこのメールに困惑しておられるなら、今日、私は知っていただきたい。私がイスラエルの真の友人としてここで心をこめてお話しすることを、です。AIPACを訪ねることは、その友人の1人であるということです。良き友なのです。アメリカとイスラエルとの絆は今日も、明日も、そして永遠に不滅だということを確かなものにすることへの強い献身を分ち合う友人たち、よき友の1人なのです。私がAIPACを賞賛する多くのことの1つは、あなた方が最初からこの共通の大義のために闘っておられることです。AIPACの活力の源はこの部屋におられる皆さん、自分たちの声を届けるために毎年ワシントンへやってこられる全国のあらゆる年齢層の草の根活動家の皆さん方です。アメリカとイスラエルの絆が共通する国益以上のもの、つまり共通の価値、国民の共通の物語に根ざしていることを世界に向けて明らかにするためにはるばるやってこられた1200人以上の学生さんたちほどAIPACの“顔”を反映しているものはありません。私は大統領として、この両国の絆をさらに強固なものにするためにあなた方と共に力を尽します。
私がイスラエルについて知ったのは11歳のときでした。ユダヤの民たちがその信仰と家族、文化を通してそのアイデンティティーを守り通した長い道のりとその確固たる決意について学んだのです。ユダヤの民たちは何年にも渡って、また何世紀にも渡って、抗しがたいとも思える敵に直面しながら、その伝統と祖国への夢を引き継いできました。
その物語が私に力強い印象を刻み込みました。私は自分のルーツへの意識を持つこともなく育ちました。私の父は黒人で、ケニア出身でしたが、2歳のとき、私たちの元を去りました。母は白人で、カンサス州出身です。その母と共にインドネシアに移り、その後、ハワイに戻ってきました。多くの点で、私は自分がどこにルーツがあるのかわかりませんでした。だからこそ私は、あなた方が精神的、感情的、そして文化的なアイデンティティーを堅持しておられることに強く引き込まれるのです。そして自分たちの物語の中心にいつも“祖国”があるというシオニズムの思想を私は深く理解できるのです。私はまた、ホロコーストの恐怖と、そしてその恐ろしい緊急事態がユダヤ人たちにイスラエルへの帰還をもたらしたことを学びました。私の幼少時代、私は祖父母と暮しました。私の祖父と大叔父は第二次世界大戦に参戦しました。大叔父はカンサス出身で、ヨーロッパをその目で見ることになるとはおそらく予想もしていなかったことでしょう。そこでは恐怖が彼を待ち構えていました。そしてドイツから帰国した後、大叔父は何ヵ月も脳裏から離れない痛みを伴う記憶と共に、衝撃の状態から抜け出せなかったのです。
私の大叔父は第89歩兵師団の一員でした。ナチの強制収容所に最初に入ったアメリカ軍の部隊です。彼らは1945年4月にブッヘンヴァルト収容所の一部だったオルドルフ収容キャンプを解放したのです。そのキャンプの戦慄する光景は私たちの想像を超えるものでした。何万という人々が飢えと拷問、病気、殺人によって死んでいたのです。それは600万人を殺戮したナチの殺人マシンの一部でした。アメリカ軍がその収容所に入ったとき、兵士たちは積み重ねられた死体の山と飢えた生存者たちを発見しました。アイゼンハワー司令官は近くの町のドイツ人たちにそのキャンプを視察するように命じました。ドイツ人の名によってどんなことがなされていたかを目撃させるためです。またアメリカ軍の部隊にも、そのキャンプを視察するように命じました。兵士たちが、自分たちが闘っている悪魔の実態を目にすることができるようにです。さらにアメリカの議員やジャーナリストたちに目撃させるために現地に招きました。映像や写真に記録することも命じました。そういう行動を取った理由をアイゼンハワーは「この惨事の第一証拠を残して置きたかった。そうしなければ、将来、そのような主張は単なるプロパガンダだと非難する傾向が大きくなりかねないからだ」と語っています。
まさにその恐怖の映像を私はヤド・ヴァシェム(ホロコースト記念館)で目撃しました。その映像は決して私の記憶から去ることはありません。それらの映像は、ショア(大虐殺)の生存者たちが記憶にとどめてきた事実の物語のほんの一端をうかがわせるものに過ぎません。アイゼンハワーのように、私たちすべてが、この筆舌に尽くしがたい犯罪を否定するいかなる者たちに突きつける目撃証言を身につけているのです。私たちが「二度と繰り返さない」という言葉を発するとき、その意味を深く刻まなければなりません。
収容所キャンプの解放から2、3年後、デービッド・ベングリオンは、ユダヤ人国家、イスラエルの建国を宣言しました。イスラエルの建国は、長年の闘争と何十年という痛みを伴う営為から根付いた、正義にかなう必要な営為だったことを理解しています。しかしそれから60年後も、私たちは心を和らげることも、屈服することもできないとわかっています。大統領として私はイスラエルの安全保障に関して決して妥協はしません。
今なおホロコーストを否定する声々が存在し、イスラエルの破壊を狙うテロリスト集団や政治指導者たちが存在し、イスラエルの存在を認めない中東の地図やユダヤ人に対する憎しみに満ちた政府発行の教科書が存在し、さらイスラエル南部のスデロットの町にロケット弾が降り注ぎ、イスラエルの子どもたちが徒歩やバスで登校するときはいつも、深いため息をつき、異常な勇気を奮い起こさねばならないときに、私は決して妥協はしません。
イスラエルの平和の希求と安全保障の必要性を私は以前から理解してきました。しかし2年前に現地を訪問したときほどそれを実感したときはありませんでした。(イスラエル空軍の)ヘリコプターで飛行し、地中海を背景に横たわる狭く美しい回廊を目の当たりにしました。そして地上では、(ヒズボラが発射した)カチューシャ・ロケットによって家を破壊された家族に会いました。ブルーライン(国連が画定したイスラエルとレバノンの国境)近くでイスラエルの安全保障を維持するために日夜恐怖と向かい合うイスラエル軍の兵士たちと話をしました。さらに子どもたちのために安全な未来をという、最も質素で掴まえどころのないことを望む人たちとも語り合いました。
あらゆる脅威に直面するイスラエルの側に立つということが、民主・共和両党の強い合意の一部であることを私は誇りに思ってきました。それはマケイン氏と私の双方が共に抱く責任です。なぜならアメリカにおいてイスラエルへの支援は政党の壁を超えたことだからです。しかし私たちの責任は、イスラエルの安全保障が危機にさらされた時にこそ大声で語られなければならないのです。そしてイスラエルをさらに安全にするためのアメリカの最近の外交政策に私たちの誰も満足していないのです。
現在、ハマスがガザ地区を支配しています。南レバノンではヒズボラがその支配を強め、ベイルートではその力を誇示しています。イラクでの戦争のために、イラク以上にイスラエルに強烈な脅威を与えているイランは大胆になり、中東におけるアメリカと、イスラエルに対して戦略的な挑戦の姿勢を堅持しています。イラク情勢は不安定で、アルカイダがそのメンバーのリクルートを一段と加速しています。イスラエル国民によって担わされた重い責務にも関わらず、イスラエルの隣国との平和の希求は立ち往生を強いられています。そしてアメリカはこの地域での孤立をさらに深めています。その影響力が弱まりイスラエルの安全を危険にさらしているのです。
アメリカとイスラエルの同盟は共通の利益と価値を分ち合うことに基づいています。イスラエルを脅かす者はアメリカを脅かす者です。イスラエルは絶えずその前線で脅威に直面しています。ホワイトハウスで私はイスラエルの安全保障のために揺るぎない努力を惜しまないでしょう。
その第1歩は、イスラエルの軍事的優位を質的に確実なものにすることです。イスラエルがガザ地区からイランの首都テヘランに至るまでのいかなる脅威からも防衛できることを確かなものにします。アメリカとイスラエルの防衛協力は成功のモデルであり、さらに深めなければなりません。この10年にわたって300億ドルを提供するという友好覚書を実行します。それは他のいかなる国にも縛られないイスラエルの安全保障への投資なのです。まず私たちは2009年に海外援助の要求を承認しなければなりません。さらにミサイル防衛における協力関係を強化することができます。兵器もNATOと同様のガイドラインに沿って同盟国イスラエルに輸出されるべきです。また国連や世界のあらゆるところで、いつもイスラエルの権利を守るために立ち上がるつもりです。
政治のスペクタクルを通して、イスラエル国民は、持続する平和を通してのみ真の安全保障が実現できることを理解しています。だからこそ、私たちはイスラエルの友人として、その平和を達成するためにイスラエルとその隣人たちを支援するためにあらゆることをする決心をしなければなりません。なぜなら安全で継続できる平和はイスラエルの国益となるからです。またそれはアメリカの国益でもあります。さらにそれはパレスチナ人にとっても、アラブ世界にとっても利益となるのです。私は大統領として、ユダヤ人国家とパレスチナ人国家の2国家共存というゴールの達成をめざし、イスラエル支援のために尽力します。つまり2国民が平和で安全に隣同士で暮していくためにです。私は大統領の任期が終るまでそれを待つつもりはありません。私は積極的な役割を果たし、政権に就く当初から平和の道を前進するために、全力を尽くして個人的な努力をしていきます。
平和への長い道のりには、パートナーのパレスチナ人が同じ道に邁進する必要があります。ハマスは自らのテロを非難しイスラエルの生存権を認め、過去の合意を受け入れない限り、またそうするまで、孤立させなければなりません。テロリスト組織と交渉のテーブルに着く余地はまったくありません。だからこそ私は2006年にハマスが選挙に参加することに反対したのです。イスラエルとパレスチナ自治政府は当時、アメリカに選挙を行うことに対して警告を発しました。しかしブッシュ政権はそれを推し進めたのです。その結果、ガザ地区はハマスに支配され、イスラエルにロケット弾が降り注ぐことになったのです。
パレスチナ人は、誤った過激派の「預言者」や海外援助に関する腐敗によっては何の進展ももたらされないということを理解しなければなりません。アメリカと国際社会は、テロを撲滅しようと努力し、和平達成の重責を担うパレスチナ人たちの側に立たなければなりません。私はアラブ諸国にイスラエルとの関係の正常化のために一歩を踏み出し、過激派に圧力を加え、アッバス大統領とファイヤド首相を支援する責任を全うすることを強く呼びかけます。エジプトはガザ地区への武器の密輸を断ち切らなければなりません。一方イスラエルは、パレスチナ人の移動の自由を確保し、ヨルダン川西岸での経済状態を改善し、さらにアナポリスでブッシュ政権と約束したように新たなユダヤ人入植地の建設を制限することで、イスラエルの安全保障と矛盾しない適切なステップを踏み出し、和平への道を進展させることができます。
明確にしておきたいのは、イスラエルの安全保障は不可侵なことです。また交渉の余地もありません。一方、パレスチナ人はイスラエルに隣接し統合された国家が必要です。しかしパレスチナ人とのいかなる合意もイスラエルのユダヤ人国家としてのアイデンティティーと安全保障、そして理にかない防衛可能な境界が確保されたものでなければなりません。さらにエルサレムはイスラエルの首都であり、不可分のものでなければなりません。
これが簡単な問題だという幻想は抱いてはいません。双方に異なった決断が必要となるでしょう。しかしイスラエルは、もし目標の達成に尽力する相手がいれば、和平を達成できるだけの力があります。ほとんどのイスラエル人もパレスチナ人も平和を望んでいます。私たちは和平達成に努力する彼らの手を強化しなければなりません。アメリカはこの過程において、強力で一貫したパートナーでなければなりません。妥協を強いる勢力になってはなりません。尽力するパートナーが手詰まりになることを避け、一種の空洞が暴力で埋められることを避けなければなりません。それがアメリカ大統領として私が力を注ぐことです。
イスラエルへの脅威はその国の近隣に起因していますが、そこで終るわけではありません。シリアはテロ支援を続け、レバノンでは干渉を続けています。さらに大量破壊兵器を求める危険なステップを踏み出そうとしています。だからこそ、その脅威を絶つためのイスラエルの行動が正当化されるのです。
またアメリカには、シリア人との和平交渉を再開しようというイスラエルの努力を支援する責任があると私は思います。アメリカはイスラエルに交渉のテーブルに着くように強制すべきではありません。しかし一方、イスラエルの指導者たちがその交渉はイスラエルの国益にかなうと決断したとき、その交渉を妨害すべきでもありません。大統領として、イスラエルがその交渉を成功させるために支援すべきことは何でもやるつもりです。その成功のためには、レバノンに関する国連総会決議1701の全面的な履行が必要であり、シリアのテロ支援の中止が不可欠です。今やその無謀な行動を終結させる時なのです。
イスラエルと中東地域の平和と安定にとってイランほどの脅威はありません。今日の聴衆のみなさんには共和党の方も民主党の方もおられますが、イスラエルの敵に対して、どういう政党であれ、アメリカ人がイスラエルの安全保障への取り込みにスクラムを組んで立ち向かうということに疑いを持つべきではありません。だから私は今日ここであまり党派的な発言をしたくはありません。ただ私たちの立場に対する故意の誤った特徴づけについてお話ししたいと思います。
イラン政府は暴力的な過激派を支持し、中東地域で我われに挑戦しています。危険な武力競争を誘発し核のノウハウをテロリストに移転する核能力を追求しています。イランの大統領はホロコーストを否定しイスラエルを地図から抹殺しようとしています。イランの脅威は絶大で現実のものであり、我われの目標はこの脅威を取り除くことです。
しかし私たちはこの脅威を見据えています。イランに対する今日の政策の失敗を明確にしなければなりません。2002年にはイランがテロを支援していることはわかっていました。不法な核計画を持っていることもわかっていました。イスラエルに重大な脅威を与えていることも、です。しかし現政権はこの脅威を公言する戦略を取らず、それを無視してイラクに侵攻し占領しました。私がこのイラク戦争に反対したとき、この戦争が中東における過激派の火に油を注ぐようなものだと警告しました。そしてイランにおいてまったくその通りのことが起こったのです。つまり強硬派が勢力をさらに強化し、2005年にはモハマド・アハマディネジャドが大統領に選出されました。それによってアメリカもイスラエルもさらに安全が脅かされることになったのです。
私はマケイン上院議員を尊敬し、これからの5ヵ月間、彼と実質的な議論をすることを楽しみにしています。しかしこの点に関して明らかにマケイン氏と私との間に違いがあります。マケイン氏はこの政策の失敗を理解しようとも認めようともしません。そして今後もその政策を継続していくことでしょう。彼は私が強力な外交を行使しようとすることを批判し、それに代わる現実、つまりイラクでの戦争に続いてイランでもどうにかして戦争を起そうというのです。しかし現実はまったく逆です。イランはそれによって立場を強化します。イランは現在、ウランの濃縮を行い、すでに150キロの低濃縮ウランを貯蔵していると報道されています。それがテロの支援につながり、イスラエルに対する脅威は増幅されます。これが事実であり、それを否定することはできません。アメリカとイスラエルの安全を悪化させるこの政策が継続されることを私は拒絶します。
マケイン上院議員は、イラク政策の継続、またはこの地域をイランに引き渡すという誤った選択を提示しています。私はこの論理を拒否します。よりよい方法があるからです。アメリカ軍を全て不安定なままイラクに縛りつけておくことは、イランを弱体化させる手段にはなりません。まったく逆にイランを強化させることになるのです。それは停滞のための政策であり、勝利のための計画ではありません。私はイラクからの責任ある、段階的なアメリカ軍の撤退を提案してきました。アメリカは不用意にイラクに侵攻しましたが、今度は注意深く撤退するのです。最終的には、イラクの指導者たちに自分たちの国の将来に実質的な責任を持つように圧力をかけます。
私たちはまた、アメリカのあらゆる力を用いてイランに圧力を加えていきます。イランが核兵器を所有することを防ぐためにあらゆる力を行使します。まず自滅的な条件なしの攻撃的な外交で、アメリカの利益を明確に理解し、原則に乗っ取った外交から開始します。私たちは時間を無駄にはできないのです。イランの核兵器保有を防ぐことができるかもしれないアプローチを無条件に除外することはできません。持続的なやり方をヨーロッパの同盟国に売り渡し、アメリカは限られた、漸次の対話を試みてきました。今はアメリカがその対話をリードする時です。
周到な準備が必要です。同盟国とは意思疎通のための回線を開き、議題を立ち上げ、親密に協力しあい、前進のための可能性を検討し評価します。一部の人の主張・要求とは逆に、私はただ話し合いをするために敵対者と対話の席に着くことには関心はありません。しかしもし、いやそれに限ってですが、アメリカの利益を促進することができるなら、私はアメリカ大統領として、適切なイランの指導者と私が選ぶ時と場所で、原則に則った力強い外交を喜んで率先していくつもりです。
つい最近になって定義上の外交では十分に強力ではないという者が出てきました。しかしそんな彼らはトルーマンやケネディ、レーガンの例を忘れています。これらの大統領は、真の力のテコを背景にした外交が、政治的手腕の基本的な道具であることを理解していました。そして今や再びアメリカの外交を、単に失敗を内包する手段としてではなく、成功の道具とする時です。私たちは決してイランの政権に幻想を抱くことなく、この外交を追求していきます。幻想ではなく、明確な選択を提示します。つまりイランがその危険な核計画、テロの支援、イスラエルへの脅迫を放棄すれば、経済制裁の解除、国際社会との政治的・経済的な統合など、実質的な譲歩を手にすることができるでしょう。そうでなければ、我われは圧力装置を起動させることになるでしょう。
私は大統領として、アメリカの立場を回復するためにその影響力を強めます。外交を追求するという意志は、他国が我われの大義に加わることをより容易にするでしょう。アメリカに選択を提示されてもイランがその進路を変えようとしないなら、イラン国民にも世界の人びとにとっても、イラン政府が自らの孤立の創造者になることが明白になるでしょう。国連安全保障会議による経済制裁をより強化するように主張し、ロシアや中国と共に我われの力を強化していくことになります。アメリカは、ヨーロッパや日本、また湾岸諸国らと協力しあい、融資保証のカットや経済制裁の拡大から、精製された石油のイランへの輸出禁止、イラン革命防衛軍──その部隊はテロ組織とレッテルを貼られていますが──と関係する企業のボイコットなどに至るまで、国連の外でもあらゆるイランの孤立化の道を模索します。
私はマケイン氏が圧力の源として資本引き上げを提案されていることに非常に関心があります。それはイスラエル人の科学者や研究者たちを罰するための頑迷な権利剥奪ではなく、イラン政府を標的にした剥奪です。それはいい考えですが、決して新しいものではありません。私は1年以上も前に、各州や民間セクターに対し、イランでビジネス活動をする企業の資本引き上げを奨励する法案を提出しました。その法案は両党から支持を得ましたが、彼自身に説明いただきたいいくつかの理由で、マケイン氏は署名されませんでした。一方、匿名の上院議員がその法案の成立を阻止したのです。今やその法案を通過させる時です。それによってイラン政府へのしめつけを強化できるようにするためにです。世界において石油価格は最も危険な武器です。その石油マネーがアメリカ軍やイスラエル国民を殺す武器のために使われます。そしてブッシュ政権の政策が石油の価格を吊り上げました。一方で、そのエネルギー政策がアメリカを海外の石油やガスにさらに依存させることになったのです。今こそ、アメリカが石油の中毒になることを止めるために真剣に行動を起す時なのです。私たちはイスラエルと手を携えて昨年のアメリカ・イスラエルエネルギー協力法をを創り上げ、それによって両国の共同研究と共同開発をいっそう強化して代替エネルギーを開発する協力関係を深めるのです。長期に渡って我われの力を増強するための最も確かな方法は、イラン政府の財源を止めることなのです。
最後に、疑う余地もないことですが、アメリカと同盟国イスラエルの安全保障のために、机の上に軍事行動の脅威の選択を絶えず用意しておきます。敵対したとき、時にはそれ以外の代替案がないことがあります。しかしそれは外交のいっそうの重要性を高めるときに限ります。もし軍事力を用いざるをえない時は、それが成功の可能性がある時であり、国内外で大きな支持がある時であり、そして我われの外交努力が尽きた時です。
アメリカの外交政策に必要なのは変革です。アメリカの力と影響力を回復するための変革であり、同盟国にもまた敵対国にも同様に知らしめる公約を伴った変革です。またそれはイスラエルとの揺るぎない友好と安全保障への責任を維持する変革なのです。
AIPACのメンバーとして、あなた方は、同盟国イスラエルを支援し守るという民主・共和両党の合意を推進してこられています。今日、アメリカ議事堂で下院議員たちとお会いになり、訴えをされることでしょう。しかし私たちは単に政策のためにここにいるのではありません。私たちが大切に共有する、イスラエルの物語に深く刻み込まれた価値のためにここにいるのです。
この60年間にイスラエルが成し遂げたことを見てください。何十年という闘争、恐ろしいホロコーストの勃発、シリアからエチオピアやソ連まで関連する世界中からのユダヤ人のために祖国を用意するために、1つの国家が創り出されました。絶えず脅威に直面しながら、イスラエルは勝利し続けてきました。絶え間ない危険に立ち向かいながら、イスラエルは繁栄を続けてきました。絶えず安全を脅かされる状態の中で、イスラエルは震えるような開かれた語りと、法の支配への弾力のある献身を維持してきました。
どんなイスラエル人も口にするように、イスラエルは完璧な場所ではありません。しかし、さらに完璧な未来を求めるとき、アメリカと同様、あらゆる人びとに1つの実例を示してくれるのです。同質のものを私たちはアメリカのユダヤ人の中に見出すことができます。だからこそ、ユダヤ系アメリカ人はアメリカ自身の物語を促進しながらも、イスラエルの側に立ち続けるのです。なぜなら、ユダヤ人の信仰と伝統の中に深く刻み込まれた、自由と公正、社会正義と平等の機会への献身があるからです。それはこの世界を改善する責務です。
その献身がなければ、今日私がここに立つことはなかったということを決して忘れはしません。我が国の偉大な社会運動の中で、ユダヤ人とアフリカ系アメリカ人は肩を組み合って共に闘ってきました。南部では差別に抗議するために共にバスを降りました。共に抗議のために行進をしました。そして共に血を流しました。アンドリュー・グッドマンやマイケル・シュワーナーのようなユダヤ系アメリカ人は黒人のジェームズ・チェイニーと共に自由と平等のために喜んで死にました。
彼らの遺産は私たちが引き継ぐべき財産です。ユダヤ人とアフリカ系アメリカ人の絆が傷つけられることを許してはなりません。これはさらに強めなければならない絆です。私たちは共に、あらゆるかたちの偏見、争い、憎しみを終らせるために再び専念できるのです。私たちは共に、正義への私たちの献身を再生できるのです。私たちは共に、最も強固な壁さえも突き崩してしまうために声を合わせることができるのです。
その営為は共に分ち合うイスラエルへの献身を含まなければなりません。あなたがたも私も、ただ立ちはだかること以上のことをやらなければならないことはわかっています。今はまさに、あらゆる敵に顔をそらし油断してはならない時です。イスラエルの子どもたちと全世界の子どもたちのための未来と平和を探求して前進する時です。そして今はまさに、イスラエルが並外れた旅の次の章を書き出す時にそのイスラエルのそばに立つべき時です。そしてこの世界を修復する営為に共に参加しなければならない時なのです。
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