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日々の雑感 124:
米新大統領の中東政策の行方は?(2)
(『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の要約から[1])

米新大統領の中東政策の行方は?(1)

2008年11月17日(月)

 なぜ、当時、民主党大統領候補となったばかりだったバラク・オバマ氏は、これほどまでAIPAC総会で媚びを売る必要があったのか。これまで何度も要約を本コラムに掲載してきた著書『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の中から参考となる部分を抜粋/要約してみよう。

【第5章 政策形成を誘導する】

 〈イスラエル・ロビー〉を形成する諸団体や個人は、2つの戦略を用いて米国のイスラエルへの支援を確かなものにしようと活動している。1つ目の戦略は、ワシントンにおける政策形成過程に大きな影響を与えること。2つ目の戦略は、社会の風潮がイスラエルに好意的なものになるよう、あらゆる手段を用いること。つまり「米国社会全体が、イスラエルへの支援は戦略的、人道的な根拠にもとづいているという主張を受け入れるようにすること」である。(p.272)

 〈イスラエル・ロビー〉は次の4つの方法で目的を達成しようとする。1つ目は、政府高官らが遂行したいと思っている政策を阻止すること。2つ目は、政府高官が避けたいと思う政策をやるように圧力をかけることで、その際には、政府高官が自ら進んでその政策をやりたいのだと振る舞うようにさせること。3つ目は、米国の指導者が〈イスラエル・ロビー〉が反対する計画を推進できないようにすること。4つ目は、人々の考えや意見を〈イスラエル・ロビー〉の好ましい方向に変え、それによって指導者が〈イスラエル・ロビー〉の支持する政策を進んで実行するようにさせること。(p.273)

 〈イスラエル・ロビー〉が連邦議会において成功を収めている1つの理由は、連邦議会の主要な議員がキリスト教シオニストであるということだ。リチャード・アーメイ元下院議員もその1人だ。アーメイは02年9月、「私にとって外交政策での最優先事項はイスラエルを守ることである」と発言した。米国の下院議員にとって最優先事項は「米国を守ることである」はずだ。しかしアーメイはそうは言わなかった。(p.274)

 AIPAC元会長のモリス・アミタイはかつて次のように発言した。
 「議会で働く職員の多くはたまたまユダヤ系である。彼らは多くの問題をユダヤ人としての目を通して見ている。こうした職員は、議員のために様々なことを決定できる立場にいる。連邦議会では職員のレベルでできてしまうことがたくさんあるのだ」。/〈イスラエル・ロビー〉のスタッフが立法プロセスに直接参加する場合もある。(p.276)

 〈イスラエル・ロビー〉を構成する諸団体の中でも、AIPAC(米国イスラエル広報委員会)こそが連邦議会に影響を与える際に鍵となる団体だ。/ビル・クリントン元大統領はかつてAIPACについて次のように語っている。「AIPACは驚くほどの力を持ち、ワシントンにあるどのロビー団体よりも優秀だ」。ニュート・ギングリッチ元下院議長はAIPACを「地球上で最も力を持つ利益団体」と呼んだ。/民主党上院院内総務ハリー・リードは「AIPACほどよく組織され、尊敬を集める政策組織がこの国に他にあるとは考えられない」と発言し、『ニューヨーカー』誌のジェフリー・ゴールドバーグ記者は、AIPACを“ロビー団体の中の怪物”と呼んでいる。(p.277)

 AIPACの成功は政治家や議会選挙の立候補者たちを褒章し、罰する能力を持っていることによるものだ。AIPACの主張に賛同する者には支持を与え、そうでない者には支援を与えない形で罰を与える。AIPACは選挙資金の行方に影響を与える能力があるから、このようなことも可能なのだ。米国の選挙では資金が重要だ。選挙に勝つには莫大な資金が必要となる。AIPACは政治家が自分たちの主張に賛同し続ける限り、その政治家が資金をきちんと受け取れるように保証している。(p.277)

 歴史家のデイヴィッド・バイエルは「〈イスラエル・ロビー〉が成長してきた理由の1つには、ユダヤ系米国人のPAC(政治活動委員会)の発展がある。ユダヤ系米国人のPACネットワークが全米中に拡大した。ユダヤ系米国人によるPACは、議会選挙の候補者に対しイスラエルを支持するか否かを基準にして選挙資金を提供してきた」と述べている。(p.278)

 ハリー・ロンズデール(オレゴン州選出の共和党上院議員ハットフィールドに対抗して90年の選挙に出馬したが敗れた)
 「私は親イスラエル的な発言をしていて、AIPACがそのことに気づいた。選挙運動の序盤、私はワシントンにあるAIPACの本部に招かれた。AIPACが私を本部に招待したのは私と議論するためということだった。AIPACの本部で経験したことを、私は決して忘れることはないだろう。私がただ単に親イスラエル的であるということだけでは足りなかったのだ。重要な問題が列記してあるリストが渡された。AIPACはそれぞれに対する私の意見を根掘り葉掘り問い質した。私はそこで、私の意見がどうでなければならないか、公の場で意見を表明する際にどのように言葉を使わなければならないかを教えられた。緊張感のある面談が終った後、私の名前は米国内でイスラエルを支持する人物リストに入れられた。その後、私は選挙資金に苦労することはなかった。私が選挙資金が足りないと声をあげると、AIPACの会員たちが政治献金してくれるのだ。フロリダ州やアラスカ州からも政治資金が届いた」(p.280)

『ウォールストリート・ジャーナル』紙
 「AIPACは、彼ら自身は政治に介入していないと主張している。しかし少なくとも51の親イスラエル派のPACがAIPACのスタッフやAIPACの2つの主要な意思決定機関に属する人々によって運営されている。これら親イスラエル派のPACはユダヤ人の寄付で運営されており、会の名称は紛らわしくわかりにくいものになっている」(p.281)

 連邦選挙管理委員会は、AIPACが親イスラエル派のPACのネットワークを支配していると結論づけるための十分な証拠は見つからなかったとしている。しかしAIPACが政治資金の流れを誘導しているという確信は人々の間に広がり続けている。(p.281)

『エコノミスト』誌
 「90年から04年にかけて、親イスラエル派の諸団体はおよそ5700万ドル(68億円)もの金を政党や候補者に寄付した。一方アラブ系米国人やイスラム教徒が運営しているPACは、同じ時期に80万ドル(1億円)しか寄付しなかった。(p.282)

 過去30年以上にわたり、親イスラエル勢力が集めた資金のおかげで、多くの立候補者が選挙に当選し、イスラエルに対して友好的ではないと考えられた多くの現職議員が落選していった。(p.283)

 82年のシカゴでイリノイ州選出で現職の共和党下院議員だったポール・フィンドリーと対決させるため、AIPAC会長だったロバート・アッシャーが、イリノイ州の弁護士だったリチャード・ダービンを担ぎだした。アッシャーは当時をこう振り返る。
 「私はダービンの考え方を詳しく調査した。私はポール・フィンドリーに反対しているだけではなく、イスラエルの友人でもある人物を支持したいと望んでいた。ダービンは州の内外の多くのユダヤ人の助けを借りてフィンドリーを破った。どうやってダービンを見出したかというと、私はアメリカ中を旅した。そして人々とイスラエルに友好的でない人物をいかにして倒すかについて語ってきた。そして扉は開かれたのだ」(p.284)

 アイオワ州選出の共和党議員だったロジャー・ジェプソンのケースはAIPACの力を示している格好の実例だ。ジェプソンは81年、レーガンの個人的な請願に応じて米国のサウジアラビアへのAWACS早期警戒管制機の売却を支持した。この行動によってジェプソンはAIPACに狙われることになった。84年の上院議員選挙で、ジェプソンの対抗馬だった民主党のトム・ハーキンは10万ドル(1200万円)の選挙資金を親イスラエル派のPACから提供された。この選挙でジェプソンは議席を失った。(p.285)

 84年、イリノイ州選出の共和党上院議員だったチャールズ・パーシーが落選。75年、AIPACはフォード大統領による米国の中東政策見直しに抗議するため、上院議員76人にフォード大統領への書簡を送付させた。その際パーシーは、書簡への署名を拒否した。この行動でAIPACの怒りを買うことになった。さらにパーシーは「PLOのアラファト議長は、他のパレスチナのテロリストと比較すると穏健だ」と発言するという間違いを犯した。84年の共和党予備選挙および本選挙でのパーシーの対抗馬たちは、それぞれ親イスラエル派のPAC、カルフォルニア州のさる実業家、AIPACへ大口寄付を行っているマイケル・ゴーランドから多額の献金を受け取っていた。2人の対抗馬は合計で110万ドル(1億3千万円)の資金をイリノイ州での反パーシー宣伝活動に使った。
 AIPACのトム・ダイン代表は、「アメリカ中のユダヤ人がパーシー追い落としのために結集した。米国の政治家は現職であろうとなかろうとある教訓を学んだに違いない」と述べた。(p.287)

 『フォーワード』紙の論説委員J・J・ゴールドバーグは、02年にこう述べている。
 「議会における親イスラエル勢力についてのイメージができあがった。そのイメージとは彼らの意向に逆らってはいけないし、もし逆らえば自分たちがやられてしまうというものだ」
 AIPACと様々な親イスラエル派のPACは、イスラエルに友好的な候補者を当選させる以上のことに集中している。AIPACと様々なPACはイスラムに対して批判的な政治家を、イスラエルの熱心な支持者に変身させることに成功している。(p.288)

 ヒラリー・クリントン上院議員は98年、パレスチナ国家建設への支持を表明し、99年にはヤセル・アラファトの妻スーハ・アラファトと公の場で抱擁を交わした。ヒラリーのこれらの行動を〈イスラエル・ロビー〉に属する諸団体は激しく批判した。だが上院議員選挙に初出馬して以降、彼女は熱心なイスラエル支持者となった。現在、ヒラリーは資金援助を含め、多くの支援と強力な後ろ盾を親イスラエル勢力の諸組織や個人から受けている。
 06年7月、ヒラリーは親イスラエル派の集会に参加し、そこでイスラエルのレバノンに対する破壊的な戦争への支持を表明した。
 06年、多くの親イスラエル派のPACはクリントン上院議員に対して3万ドル(360万円)以上の資金資金を提供した。06年はクリントン上院議員が再選を目指した上院議員選挙の年だった。07年1月『フォーワード』紙は次のように報じている。
 「クリントン上院議員は、08年の民主党大統領候補指名選挙に出馬することを表明している。その選挙キャンペーンにおいて、ユダヤ人社会からの政治献金の大部分はクリントン上院議員に渡ると予想されている」(p.289)

 91年、ある下院の職員の発言。「イスラエルに反対する投票を行うことは、ワシントン州で材木に反対投票をするくらい無駄な行為だ。AIPACは国中でやりたいことができるのだ」(p.290)

 07年、ジミー・カーター元大統領は「なぜ、どの上下両院議員もイスラエルとパレスチナとの間で中立な立場をとり、交渉によって和平を達成させようと言わない雰囲気になっているのか」と発言した。AIPACの会計責任者を務めたモリス・アミタイは、カーター元大統領の疑問に答える形で次のように述べた。
 「イスラエルの保守政権に対して反対の政策を支持する立場をとると解釈されることは、再選を目指す議員にとって政治的に自殺することなのです」(p.291)

 AIPACは年に一度、政策大会を開く。大会には民主、共和両党の有力な政治家と行政府の指導者が多く出席する。これはAIPACの力を誇示している。政治家や指導者たちはAIPACに自分たちを印象づけようとする。まるで御前演奏だ。(p.291)

 AIPACが米国の選挙に与える影響力によって、イスラエルは毎年米国からの多額の援助を確かなものにしている。またAIPACの力によって、上院議員や下院議員がイスラエルの行動に関して穏やかな批判をすることすら危険なものとなっている。
 しかし、AIPACが議会に与える影響は選挙だけに留まらない。ロビー団体というものは影響力を行使するために議員を直接説得したり、選挙資金を使って議員に接近したりするような手段だけを用いるわけではない。ロビー団体は自分たちに好意的な議員に対して立法に関わる補助金を与え、有能なスタッフを議員の許に送り込む。それらのスタッフは問題を分析し、法案を起草し、有権者向けの話題やスピーチを提供するなど様々な仕事を議員のために行う。(p.292)

 AIPACは2週間に1度『近東レポート』を送付している。さらにイスラエルに関する問題が発生した際には、議員のスタッフをAIPACのスタッフが助けることがある。
 AIPACのスタッフ「議員やそのスタッフがイスラエルに関する情報を必要とする際には、まずAIPACに頼ってくるのが普通だ。彼らは連邦議会図書館、議会調査部、各委員会のスタッフ、そして行政府にいる専門家に電話する前にAIPACに接触する」
 「AIPACは常にいろいろなことを議員から依頼される。その内容はスピーチ原稿の下書き、法案作成、議会戦術に関する助言、調査、法案の共同提出者の募集、そして投票の誘導なである」
 言い換えれば、AIPACは立法過程や政府立案過程に頻繁に介入しているのだ。(p.293)

 AIPACと議員のつながりを強くするため、AIPACの姉妹組織である「米国イスラエル教育基金」(AIEF)は議員のイスラエル視察旅行に資金を提供している。イスラエルへの視察旅行を通して、議員たちの親イスラエル的な心情はますます強くなり、議員も政治資金を集めやすくなる。また議員たちは旅行を通じて、イスラエルの指導者の望む政策や世界観をよく知ることになる。議員の海外視察旅行の10%がイスラエルなのはこの理由による。世界には200近い国があるが、議員たちの目的地はそのうちの1国に集中しているのだ。(p.293)

 連邦議会に影響を与えるこれらの伝統的な戦術は、〈イスラエル・ロビー〉が行政府に圧力をかけることも可能にする。行政府がイスラエルの利益にならない行動をとろうとしていると考えられる時、〈イスラエル・ロビー〉は伝統的な戦術を使って行政府に圧力をかける。行政府がイスラエルの利益に反する行動をとっているとAIPACが考えた時、大統領や各省庁の長官たちは、連邦議会上下両院の議員の多くが署名した、強い調子の書簡を受け取ることになるのだ。
 ジェラルド・フォード大統領が75年に米国とイスラエルの関係を見直そうとした際、上院議員たちからそれを非難する内容の書簡を受け取った。ブッシュ大統領は02年4月、イスラエルの占領地域における大規模な軍事作戦の展開をやめさせるためにイスラエルに圧力をかけようとした。その際にも、ブッシュの許にはフォードの時と同じような書簡が送付された。多くの議員たちがこれらの書簡に署名した事実はAIPACが議員を動かし、その意向に従わせることが可能であることを如実に表している。(p.294)

 コンドリーザ・ライス国務長官は07年3月に中東を訪問し、和平プロセスを再出発させようとした。その際、ライス国務長官もまた同じような圧力を感じていた。中東訪問に出発する直前、AIPACが主導した79人の上院議員の署名が入った書簡を受け取った。その書簡の内容はライスに対して、以下の条件が守られない場合は、ハマスとファタハによる新しいパレスチナ統一政府とは接触しないように求めるものだった。その条件とは、パレスチナ統一政府がイスラエルを国家として承認すること、パレスチナ統一政府がテロリズムを非難すること、そしてイスラエル・パレスチナ和平合意を遵守することだった。(p.295)

 米国政府の主要な3つの政府組織の1つである立法府はイスラエルを支持することに邁進している。米国のイスラエル政策について活発で開かれた討論というものは連邦議会では行われない。たとえ米国のイスラエル政策が世界中で重大な結果を招いていても議論されることはないのだ。(p.295)

 アーネスト・ホリングス(サウスカロライナ州選出民主党上院議員)は、04年に政界から引退する際、こう書いている。「AIPACが議会に求めるもの以外に、米国のイスラエル政策というものは存在しない」と。
 91年、ある上院議員は匿名を条件に『ワシントン・ポスト』紙の取材に次のように話した。
 「私の同僚たちはAIPACが非常に強力で、無慈悲なそして油断のならない組織であると考えている。上院議員の80%は、びくびくしながら議場での議決に投票をしているのだ。私たちは自分たちが正しいと信じていることをしていないことはよくわかっている。しかし自分が叩きのめされるとわかっている状況で戦い続けることができるだろうか」(p.295)

 アリエル・シャロン前首相「私はいろいろな人から、どうやったらイスラエルを助けることができますかとよく聞かれます。その度に私は、AIPACを助けてください、と答えています」
 エフード・オルメルト首相「おかげさまで、私たちにはAIPACがいてくれます。AIPACはイスラエルにとって世界最高の支援者であり友人です」(p.296)

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