Webコラム

日々の雑感 136:
ガザ住民への電話インタビュー [1]
1月12日の状況

2009年1月19日(月)

 前回、「日々の雑感」を書いてから、もう10日が過ぎた。ガザの友人たちへの電話インタビュー、ガザ惨状に対するイスラエル人、西岸のパレスチナ人の反応など、こちらでしかできないことをこのコラムを通して読者の方々にお送りしようとした私の計画は、なかなか実現できなかった。長い電話インタビューと、その翻訳作業、イスラエル側の反応を知るための街頭インタビュー、イスラエル人識者へのインタビュー、その映像のテレビ局への送信(結局、ボツになりましたが)、西岸のラマラ市民やビルゼート大学学生たちへのオバマ氏への期待、ガザ惨状への反応、ハマス観などをインタビューして回ったり、さらにテルアビブの街ヤファ(アラブ系市民の居住区)での反戦デモの取材などに追いまくられ、「日々の雑感」を落ち着いて書く精神的な余裕を失っていた。

 しかし、日本でのエルサレムにいる私のコラムを通して、現地の空気を知りたいと待ってくださっている読者の方々もおられるだろうし、いつまでのこのままではいけないと焦っていた。
 一方、昨日、エジプト側のラファから日本のメディア関係者がガザ入りしたことがこちらにも伝わってきた。イスラエル側で待機するジャーナリストは、軍からの許可の順番待ちの段階だが、エジプト側からジャーナリストがすでに入っている以上、近日中にその禁が解かれるだろうと期待している。そうなれば、停電や電話回線の切断などでインターネットの使用、メールの送受信も難しくなるかもしれない。だから、ガザへ移動する前に、送るべき記事、インターネット、メール連絡は済ませておかなければと思い、やっと「日々の雑感」を書き送る時間を作ることにした。

 この間のことを記述しようとすれば、数日はこのコラムを書き続けなければならない。そのくらい様々な取材をした。
 今回はまず、10日ほど前、まだイスラエル軍の攻撃下にあったラファの友人への電話インタビューを掲載する。すでに日本のメディアがガザ入りした後で、日本のテレビや新聞ですでにガザの様子が報道された後だから、この電話インタビューの内容も10日前ほどの新鮮さはないかもしれないが、攻撃下のガザ住民の生活の様子や心境を知る重要な資料になればと思い、掲載する。

ガザ住民への電話インタビュ [1]

2009年1月12日
イブラヒム・ディラウィ(ラファ在住の学校教員)

(Q・ラファでは今何が起こっているのか)

 F16が街を毎分ごとに攻撃し続けている。エジプトとの境界付近は何千という人たちが家から避難した。ブロックO地区やファラビール地区、ファラ地区などもそうだ。

(Q・どこへ避難しているのか)

 親族や友人たちの家へだ。ラファに借りられる部屋や家などないから。もう2年間もセメントが入ってきていない。家の建設などまったく何もできない状態だ。
 今はとても寒い。破壊された家を建て直すこともできない。だから人びとはテントの中や親族の家で暮している。

(Q・イスラエル軍はどこを爆撃しているのか)

 あらゆる場所を爆撃している。とりわけ今は国境に集中している。トンネルを破壊しようとしているのだ。

(Q・そこは居住区から離れているのか)

 ほんの100メートルほどだ。さらに5、6軒の家を攻撃している。その家から住民を退去させるためだ。だから住民は家から出て、その地区を離れている。
 多くの住民がサッカー・スタジアムや学校へ移っている。いま学校は避難場所として使われている。

(Q・寒いのか。どうやって暖をとっているのか)

 とても寒い。住民は自分の家から避難する前に毛布を持ち出している。

(Q・電気は?)

 ラファでは電気はまだいい。12時間電気がきて、次の12時間は停電する。というのは私たちはエジプトの電力を使っているから。しかしガザの他の地区では、電気がくるのは1日にほんの5、6時間だけだ。

(Q・ガザ市ではどこから電気を得ているのか)

 イスラエルからと、発電所からだが、これは今稼動していない。だからイスラエルからの電力をガザ市とガザ北部で分け合っている。ガザ市内で、2、3時間、そして北部で2、3時間といった具合だ。

(Q・食べ物は?)

 多くの食べ物はラファで見ることができない。食料がとても不足している。とくに小麦粉と缶詰、豆類、ミルクなどだ。これらはスーパーマケットなどで買うのだが、しかし今は店にそれらがない。
 今日、UNRWAが1、2袋の小麦粉を配布した。それは難民だけではなく、全住民に配布された。食べ物の一部はエジプトとの境界から入ってきている。しかしとても危険だ。

(Q・地下トンネルから持ち込むことはできるのか)

 いや、今は閉鎖されている。完全に、だ。また物価が急騰している。

(Q・PCHR/パレスチナ人権センターのジャバールによると、いくつかのトンネルは機能しているということだったが)

 いや、完全に閉鎖されている。毎分ごとに爆撃しているから。F16で、アメリカの爆弾を落としている。その爆撃はまるで地震のようだ。私の家は国境から4、5キロの距離だが、その振動を感じることができる。

(Q・あなたの周りで誰かが殺されたか)

 昨日は私の家から400〜500メートル離れたところに家がある人物が暗殺された。

(Q・ハマスのメンバーだったのか)

 そうだ。またイスラエル軍はファディーラ学校を爆撃した。ハマス系の学校だ。そこに5、6の爆弾を落とした。私の家の窓ガラスも壊れてしまった。

(Q・学校が攻撃されているのか)

 その通り。学校を攻撃している。夜中だったから生徒はいなかった。ガードマンが近くにいたが、幸い負傷しなかった。

(Q・水はどうしている?)

 水は手にはいる。ラファは電気があるので、ポンプが使える。2日に2時間、水を得ることができる。

(Q・子どもたちは学校へ行けないのか)

 学校へは行けない。

(Q・毎日どうやって過ごしているのか)

 子どもたちは試験をキャンセルした。今週は試験の週だったが、学校は試験をキャンセルした。大学もそうだ。

(Q・イスラム大学が爆撃されたと聞いたが)

 私は今2つの試験を受けなければならない。イラスラム大学が爆撃された日、試験を受けに大学へ行く予定だった。幸運にも行かなかった。私はイスラム大学を卒業した後、大学院に登録した。イスラエル軍は大学の実験室のある建物を破壊した。5階建てのビルを完全に破壊した。

(Q・生徒たちは勉強できるのか)

 学校を再開するのはとても難しいと思う。何千という家族が学校を避難場所に使っているからだ。彼らには家がない。1軒の家が爆撃されると、周囲の数軒が破壊される。今ラファには4つの学校があるが、すべて避難場所に使われている。家の再建も難しい。

(Q・住民のハマスに対する感情はどういうものか)

 両方がいる。ハマスの支持者とその政策に反対する勢力だ。しかし双方ともイスラエルに対して激しい怒りをもっている。イスラエルはハマスではなく、住民を攻撃しているからだ。攻撃しているのはハマスではなく、イスラエルが攻撃しているのだ。イスラエルはハマスを攻撃するべきで、民間人ではないはずだ。なぜイスラエルは民間人を攻撃するのか。攻撃しているのはハマスのメンバーではなく民間人なのだ。これが重要な点だ。

(Q・ハマスが攻撃するから、その報復としてイスラエル軍に爆撃されると思ってはいないのか)

 たしかにそう考える者もいるだろう。ハマスがロケット弾攻撃をするから、イスラエル軍は攻撃するのだと。しかしイスラエル軍はハマスがロケット弾を放つ前から攻撃していたのだ。何度もだ。その主張はイスラエル側の攻撃を「正当化」するためのものだ。

(Q・ラファでは何人が殺されたのか)

 ラファ市内だけで80人から90人だ。しかしガザ全体では900人ほどが殺されている。

(Q・ラファでは何かいちばん困難か)

 ある場所から他の場所へ移動することだ。F16に攻撃されるから。私のところからサブラ地区の友人を訪ねることもできない。
 またいくつかの種類の食べ物は手に入らない。子どものためのミルクなどが手に入らない。
 さらにコミュニケーションが難しい。イスラエル軍は電話線やパレスチナ人地区の携帯電話ジャワルの基地も破壊した。だから人びとが互いにコミュニケーションを取るのが難しい。

(Q・病院など医療面の状況は?)

 薬品については、市長に電話で訊いてみた。医療設備と救急装備が必要だ。薬品はゼロの状態といっていいと思う。心臓病や糖尿病、腎臓病などの薬もない。抗生物質もない。

(Q・ラファから援助物資が入ってきていると前回話してくれたが)

 イスラエルがガザ地区を3つの部分に分離してしまった。ラファからガザ市内へはいけない。エジプト側からラファまでトラックが来ることができても、北部のガザ市内へは行けないのだ。イスラエル軍はUNRWAの援助物資を運ぶトラックの運転手まで殺した。だから物資を運ぶのもとても危険だ。

(Q・住民は外の世界に何を期待しているのか)

 まずこの攻撃を止めてほしい。住民は苦しんでいる。子どもたちは恐怖におののいている。ただ食料などの問題ではない。

(Q・子どもにどういう心理的な影響を及ぼしているのか)

 子どもたちはとても怖がっている。私の家には2人の子どもがいる。爆撃のたびに泣いている。泣き叫ぶ。とても困難な状況だ。6歳と4歳、男の子と女の子で、私の甥と姪だ。

(Q・住民はどんな感情を抱いているのか)

 ある者はこの状況で、イスラエルに対して怒りを抱いている。率直に言って、中にはハマスに怒りを抱くものもいた。またある者は恐怖に襲われ何もすることができず、ガザからエジプトなど他の地域に脱出したいと願っている。とても困難な状況だ。
 エジプトに逃げたいと思っても、国境は閉鎖されたままだ。住民が国境を強引に開けようとした。すると住民はエジプトの兵士に銃撃され殺された。イスラエル軍はまた海からも砲撃している。

(Q・住民はアブ・マーゼン〔自治政府アッバース大統領/ファタハ〕についてどういう感情を抱いているのか)

住民にとってはアブ・マーゼンのことはどうでもいい。住民はハマスがガザを支配している中で、何も決定することはできない。だから住民にはアブ・マーゼンなどはどうでもいいことなのだ。メシャール(シリアのダマスカスに亡命中のハマスの指導者)と他の指導者たちが住民のために何かをやってくれることを望んでいる。

(Q・イスラエルはハマスを殲滅し、ガザ地区を再びアブ・マーゼンの支配下にしようとしているのだろうが、ガザの住民はそれを受け入れるだろうか)

 私は、住民はどんなことでも受け入れると思う。この攻撃はとても困難だからだ。受け入れるか、拒絶するかの選択はできない。イスラエルとハマスが戦争を続けるなら、何のいい結果も生まれない。住民は、アブ・マーゼンだろうと、国際部隊だろうと、どんなものも受け入れる。ただ住民はこの攻撃を止めたいと願っている。

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