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日々の雑感 265:
避難区域の見直しを巡る議論(2)

避難区域の見直しを巡る議論(1)

2012年5月2日(水)

 4月9日、伊達市の保原市民センターで開かれた第1回目の避難区域の見直しを巡る「懇談会」に続いて、4月11日、今度は福島市内に避難する飯舘村村民を対象にした第3回目の「懇談会」を取材した。村長をはじめ村の行政側と村民が直接、対話する現場をもう一度取材したいと思ったからだ。仙台エマオの若者たちの取材を早めに切り上げ、取材先の仙台市若林地区荒浜から福島市の会場へと2時間ほど車を走らせた。
 「懇談会」開始30分前から、200席を超える会場はほとんど埋まった。開始直前から開始後に開場に来た村民は、会場に入りきらず、出入り口に立って会場からのマイクの声を聞かなければならないほどの盛況ぶりだった。
 一通り、国と村からのあいさつと説明が終わると、会場との質疑応答が始まった。
 真っ先に飛び出したのが、避難区域見直しの基準の1つとなる年間20ミリシーベルトという数値がほんとうに「安全の基準」なのかという問いだった。
 ある村民が国側に問うた。
 「政府は20ミリが安全だといつ決めたのか。なぜ村民を20ミリのところへ帰すのか」

 それに対し国側はこう答えた。
 「昨年12月に政府は『低線量被ばくリスク管理に関するワーキング・グループ』で議論した結果、『100ミリ以下は他のリスクに紛れてわからなくなる。20ミリでは他のリスクに比べば十分に低い数字である』という報告書が出された。その議論には政府に批判的な専門家も参加している。政府は、20ミリ以下なら避難地区の解除に向けて取り組んでいく」

 それに対して、質問者は「それなら『放射線管理区域』とは何なんだ。南相馬や飯舘村だけではなく、日本全国に20ミリ以下は安全だと言ったらどうだ!」と反論した。

【注】放射線管理区域:放射線による被爆を防ぐために法令で決められた区域。外部放射線に係る線量限度である3ヶ月当たり1.3ミリシーベルト(年換算5.2ミリシーベルト)を越えるおそれのある区域。作業者の出入り規制、防護設備の徹底、線量の監視、汚染拡大防止などの防護管理を円滑に遂行するために設けられている。

 また他の村民が、説明する国側の代表たちにこう迫った。
 「20ミリが安全だというのなら、あなたたち国の代表の人たちが家族を連れてここに住み、実証してください!」
 会場から大きな拍手が沸き起こった。答えに立った国の代表は「20ミリのまま下げないということではなく、除染などで下げていきたい。はっきりした時期は言えないが、できるだけ速やかに環境を作りたいという取り組だけは理解していただきたい」と答えるだけで、自分たちがここに来て住む覚悟があるのかどうかについてはまったく答えなかった。

 この懇談会でも前回と同様、村長に代表される村の行政、さらに議会に対する村民の不信と怒りが爆発した。
 女性の村民が200人以上の村民の中で立ちあがり、前方のひな壇に座る菅野村長と佐藤議長に向かってこう言った。
 「村長は、『村民の気持ちになって、意に沿って、声を聞いている』と言っているが、いつになったら、(住民の意向を確かめる)アンケートを取るのか。あっち、こっちに講演活動に歩いているより、村民の声を聞くのが先ではないでしょうか。議員さんも、村長のヨイショをしてないで、村民の考えに沿って動くのが当たり前ではないですか。村長が恐ろしいという問題ではない。村民1人ひとりの命を守るのが議員さんたち、役場の職員たちの仕事、違いますか!」
 会場にひときわ大きな拍手、「そうだ、そうだ!」というヤジの声が沸き起こった。この女性の声が多くの村民の、村の行政や議会に抱く感情を代弁しているのだろう。
 村長はこう答えた。
 「我われはどう切り抜けるかと懸命にやっている。国と向かい合い、さまざまな要求を勝ち取っている。例えば村にある企業、菊池製作所では250人の職場を維持し、村民による『見守り隊』のパトロールも実施している。中には『放射能のモルモットにするのか』の声もあるが、では仕事を奪われた村民を路頭に迷わせていいのか。私は苦渋の中でベターのために全力でやっている。村民に対するアンケートは5月にやります

 また厳しい議会への批判に対して、議長がマイクを握った。
 「議会は村長をヨイショしているということです……」という議長の言葉に、会場から「議会が機能していないじゃないか!」というヤジの声が飛んだ。議長は言葉を継いだ。
 「こういう事態の中で、議会は議論もするし、村長と合わないこともある。そこのところをきちんとやっている。ただ村長と議会が別々の考えで、国と東電に対応していたら、困るのはみなさんですよ! 議員の同士で議論して合わないところもある。しかし平時のときと、こういう時は違うんです! 平時の場合は喧嘩してもいいが、緊急時の場合は1つにならなければ。ここを理解してもらえないと」

 「議員は、声の大きな人の話を聞いてものごとを勧めるわけにはいかない。声なき声の人がどういう悩みを持っているのか、声も挙げられない村民がどういうふうに思って、どういう悩みを持っているのか、このへんまで吸い上げるのが議員さんの仕事です。片方だけの話を聞いてやるわけにはいかないんです。アンケートも、村を出るか出ないかのアンケートだから無理なんです。村民の不安はどこにあるのかのアンケートを村は取ろうとしている。それを村長とまとめていくのが議会なんです。だから理解をお願いしたい」

 懇談会の後、会場で議論を聞いていた村民の1人、Kさんが私に言った。
 「村民が今いちばん知りたいのは、『ほんとうに村に帰れるのか』『元の村に戻してもらえるのか』『帰って暮らせるのか』ということです。しかしそれに国も村も答えない。返ってくる言葉は『除染する』ということだけです。
 村人の誰もが戻りたい。でも戻れないなら、どうしてくれるのか。私たちは、その後のしっかりした生活基盤がほしいんです。だって人生は待っていないんだもの。80歳の人は、5年過ぎれば85歳だよ。その5年間はその人の人生にとって計り知れない大きなものがあるはずです。村民は、もっとこういうことができたはずだ、と1年過ぎて思っているはずです。自分が持っていた人生設計が失われているんです。私は人生の中で、人として、いちばん大切なものを毎日失っている。毎日の生活は、人生の中での積み上げの大切な1日であり、1年です。それを失って、今までの生活基盤も失い、人生というものも失い、望みもない。そうなればやはり焦りますよ。本来の自分の人生に、戻りたいと」

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