2012年10月5日(金)
7月、「報道ステーション」と「ニュースウォッチ9」 というコラムの中で、私はこの2つのニュース番組とキャスターの違いについて書いた。
しかし10月3日の両番組を見比べたとき、私はもう一度、この問題を書かずにおれない衝動にかられた。
この日の「ニュースウォッチ9」のトップニュースは野田内閣の内閣改造の「目玉」である田中真紀子氏の文科大臣就任。大越キャスターが田中氏の元を訪ねてインタビューした。「田中氏の入閣」が、なぜ改造から3日も経ったこの日のトップニュースなのか。まずそこに頭をひねった。
野田内閣の「30年代の原発ゼロを目指す」方針と「使用済み核燃料の再処理事業を継続する」政策というエネルギー戦略の“矛盾”を指摘した田中氏発言の真意を聞き出し、党幹部のお叱りを受けて言葉を翻さざるをえなかった田中氏の心中に鋭く切り込むのかと思いきや、ただ田中氏の言い訳を垂れ流すだけ。後は、田中氏に媚びへつらうな質問ばかり。“権力の監視”こそがジャーナリズムの本来の役割のはずだが、このインタビューはその反対の役割を果たしている。このように権力者たちに擦り寄る「ちょうちん持ち記者」だからこそ、この人は「NHK報道局の主流中の主流」(元HNK関係者)に昇りつめることができたのかもしれない。
このトップニュースの極めつけは、かつて田中氏が父親である田中角栄氏と共に訪中した折、現地から立ちルポをする若かりし頃の大越氏自身の映像。「こんな昔から田中氏のことを伝え、懇意だったんですよ」と自慢したいのだろうか。自分が「東大野球部の投手」だった頃の写真を臆面もなくニュース番組の中で披歴する神経の持ち主らしいパフォーマンスである。
しかし、このおかしな「ニュースウォッチ9」の報道には、もっと深い意図があるのではないかと疑ったのは、その1時間後、「報道ステーション」のトップニュースを観たときだ。「報道ステーション」は真っ先に、福島県による、県民健康管理調査の検討委員会の“秘密会合”のニュースを伝えた。直前に委員たちを集めて非公開の会合を開き、事前の打ち合わせをしていたというのだ。県民に知られたくない事実を隠すためだったのではという専門家や県民のコメントも伝えている。さらに甲状腺検査で9歳の娘にのう胞が発見された母親が、2年後にしか行われない2次検査まで待たなければならない不安を訴えた。セカンドオピニオンを求めようとすれば、県外の病院に頼らなければならない理不尽さを古館キャスターは怒りを込めて訴えた。
一方、NHKは、この重大なニュースにはまったく触れなかった。なぜこの福島のニュースではなく、田中氏への「ちょうちん持ちインタビュー」なのか。これは単に制作者による優先順位の選択の違いではなく、意図的にこの福島のニュースを隠そうとしているのではないか。田中氏インタビューは、それを隠すための「カモフラージュ」なのではないか。「オスプレイ沖縄配備に対する県民の激しい抗議」も「内閣改造の予想」や「台風ニュース」によってカモフラージュされ、かき消されたのではないか。
NHKが見せたくないニュース、つまり権力者が知らせたくないニュースを意図的に伝えない。それをカモフラージュするために当たり障りのないニュースで埋める。そんな「ニュースウォッチ9」制作側の意図を、この日の2つのニュース番組にまざまざと垣間見た思いがした。
「ニュースウォッチ9」が何を隠そうとしているか、つまり権力者たちが何を知らせたくないのか、を見極めるために、「報道ステーション」と「ニュースウォッチ9」を見比べ続ける必要がありそうだ。
【動画】ニュースウォッチ9 2012年10月3日(水)放送:
新閣僚に聞く 田中眞紀子文部科学相
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