Webコラム

日々の雑感 272:
“ジャーナリズム”のあり方を問われた2つの報道

2012年10月22日(月)

 最近、ジャーナリズムについて深く考えさせられる2つの報道を観た。
 1つ目は、衝撃を受けた、というより煮えかえるような怒りを覚えたドキュメンタリー、NHKスペシャル「追跡・復興予算19兆円」。この番組は9月初旬にNHK総合で放映され評判になっていたが、見逃していた。1ヵ月も過ぎた10月中旬、やっと全編を観ることができた。

NHKスペシャル
シリーズ東日本大震災
追跡 復興予算 19兆円

「復興は進んでいない。お金は一体どこに使われているのか」今、被災地から切実な悲鳴があがっている。大震災後、被災地復興のためつぎ込まれる巨額の“復興予算”。増税を前提につぎ込まれることになった“復興予算”はいったいどのように流れ、使われているのか。 番組は“巨額のマネー”の行方を追い、その実態を徹底検証する。

NHKオンデマンドでの配信は、残念ながら終了しています)

 この番組は、「被災地のために」と増税をしてまで集められた予算が、「海外との青少年交流」(外務省/72億円)、反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害活動に対する監視船のチャーター代のための「調査捕鯨への補助金」(農水省/18億円)、「沖縄の国道整備」(国交省/6000万円)などに流用されていたことを明らかにした。その事実を付きけられた国の責任者は「被災地には十分すぎるほど予算を配分しているつもりだ」と言ってのけた。しかし番組は、それとは全く逆の被災地の現状を報告している。津波で全てを失った岩手県大槌町の商店主たちが、商店の再建のために経産省の「グループ補助金」を申請したが、認定を見送られた。「限られた予算」のなかで、波及効果が高い水産加工関連に優先されたためだという。気仙沼では、これまで地域医療を支えてきた診療所を再建するために、若い医師が厚生労働省の「地域医療再構築事業」の補助金を申請するが、出されたのは、建物建設費用9000万円の6分の1だけ。最低限の医療器具の購入に必要な5000万円には適用されず、ほとんどが自己負担となった。そのためこの医師は、気仙沼に留まっ地元の患者を守る医療活動を続けるために、2億円の借金を背負うことになった。このような現実に目を向けることもせず、「被災地には十分すぎるほど予算を配分しているつもりだ」と言い放つ政府の官僚たち。この「復興予算の流用」問題が公になり、国会で追求されると、担当大臣や政府要人たちは、姑息な役人たちがひねりだした「苦し紛れの屁理屈の言い訳」文を読み上げて国民に「説明」して批判を切り抜けようとする。
 為政者たちの欺瞞と傲慢さに、これほど抑えがたい怒りを覚えたことを久くなかった。「なぜこんな理不尽なことがまかり通るのか」「なぜ、国民に向かってしゃーしゃーとうそぶくこんな連中が何の処罰を受けずに、税金からの給与をもらい続けられるのか」と。
 そして、このような現実を、暴き報道したこの番組とそれを制作したディクターやプロデューサーらジャーナリストたちに、心から敬意と謝意を表したい。これが本物のジャーナリズムなのだという手本を見せてもらった。
 その一方で、こんな凄いドキュメンタリーを制作するNHKが、どうして「ニュースウォッチ9」のような「御用ニュース番組か」と疑ってしまうような番組を作ってしまうのか、不可解でならない。

 もう1つ唸らされた報道は、月刊誌『DAYS JAPAN』(10月号)の特集「告発された医師─山下俊一教授 その発言記録(一部)」だった。原発事故直後からの山下教授の発言を集めて記録し、編集長の広河隆一氏が、その発言内容の誤謬を1つ1つ、事細かに指摘している。雑誌全70ページの5分の1、14ページを割いたこの資料記録集には写真1枚なく、文字で埋め尽くされている。一般の商業雑誌では絶対できない企画である。「こんな御用学者は、絶対に許させない」という広河氏の怒りと「暴かずにおくものか」という執念が紙面から匂い立ってくる。

 昨年4月から福島県飯舘村の取材を続けてきた私も、事故直後、飯舘村で「マスクを付けて外出しなくても大丈夫だ、放射線は心配することはない」と説明して回り、村人とりわけ子どもたちに大量の被曝をさせてしまった山下俊一氏や高村昇氏(当時、いずれも長崎大学教授)の「犯罪的」とも言える“御用学者”ぶり、そんな彼らに対する住民の不信と怒りを、取材した村人たちから聞き知ってはいた。だから、そんな人物に朝日新聞が「朝日がん大賞」を授与したとき、唖然とし、怒りさえ覚えた。しかし、私には、その理不尽さをジャーナリストとして立証していく発想も、そのための知識も力量もなかった。そんな経緯もあり、『DAYS JAPAN』の特集に唸ってしまった。広河氏のジャーナリストとしての“信念”と“力”を見せつけられた気がした。そして“ジャーナリズム”とは何かを、改めて考えさせられ、教えられた。

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