2012年11月18日(日)
(西岸地区 ラマラ:金曜礼拝の後のハマス支持のデモ 2012年11月16日)
4年前のガザ攻撃以降、「平穏」に見えたガザが、今なぜこんな状況になってしまったのか。
最近ガザでは、イスラエル軍による空爆や住民への銃撃と、パレスチナ側の武装勢力によるロケット弾攻撃の応酬が断続的に繰り返されていた。私がイスラエルに到着した11月10日には、ガザで境界近くを巡回していたイスラエル軍のジープがパレスチナ側の武装勢力の砲撃で4人が負傷した。その報復にイスラエル軍が激しい空爆を繰り返し、ハマス側はロケット弾をイスラエル南部の町に向かって発射した。そして14日には、ハマス軍事部門の最高司令官アハマド・ジャバリをミサイル攻撃で暗殺。これによってハマス側の怒りは頂点に達し、イスラエル側へのロケット弾攻撃を激化させた。暗殺直後から1日足らずで275発のロケット弾が発射されている(『ハアレツ』(11月16日英語版)。ガザ近郊の町ではそのロケット弾によって3人のイスラエル市民が殺害された。一方、17日の時点で、ガザではイスラエル軍の空爆によって、幼児や妊婦を含む40人近い市民が犠牲になっている。
イスラエル側が最も危機感を抱いたのは、ガザからのロケット弾が最大の都市、テルアビブ近郊に達したことだったにちがいない。パレスチナ側がそれほどの高性能の武器を保持していることはイスラエルとって「セキュリティー」上、看過できない脅威だろう。その後イスラエル政府はエジプト側からの「休戦」調停を一切拒否し、地上侵攻の準備に本格的に取りかかった。3万人の予備役兵が招集され、17日には75000人に増強された。テレビ報道はすでにガザ境界に待機する大量の戦車の列を映し出している。地上侵攻はもう秒読み段階にある。
4年前のガザ攻撃がそうであったように、今回も2ヵ月後に総選挙を控えている。戦争や軍事作戦は、右派を優勢にするといわれている。選挙前の軍事力の誇示は最も有効な「選挙キャンペーン」でもある。
しかしジャバリ暗殺直前に電話で話をしたパレスチナ人権センターのラジ・スラーニは、「今の情勢は4年前とは違うから、ネタニヤフ政権も本格的な侵攻には慎重になるだろう」と言った。まずエジプト。かつての親イスラエルのムバラク政権とは違う、モスリム同胞団の出身のモルシが大統領である今のエジプトは、本格的なガザ侵攻を看過しないだろう。またシリア内戦の影響がゴラン高原にも及びかねない微妙な時期だ。一方、ハマスも4年前のハマスではなく、軍事力をはるかに強化している。いったん侵攻すれば前回のように1ヵ月足らずでは収拾できず、侵攻は2、3ヵ月に及びかねない。それは選挙にむしろ悪影響を及ぼす。さまざまな要因を考えると、4年前のような侵攻をする可能性は薄い、というのがラジの意見だった。
しかしラジとの電話の直後から事態は急激に悪化した。ハマスの軍事部門のトップがミサイル攻撃で暗殺されたのだ。その後、報復のロケット弾攻撃で3人のイスラエル市民が犠牲になり、さらにテルアビブ近郊にもロケット弾が飛来し、16日には、エルサレム近郊のグシュ・エツィオンにロケット弾が着地した。ネタニヤフ政権は、ハマスの攻撃を軍事力で徹底的に抑え込めという世論の高まりに押されるかたちで地上侵攻に踏み切る可能性が一段と高まった。17日のシャバット(休息日)が明けると間もなく、大量の地上兵力でガザに侵攻するだろう。
地上侵攻になれば、4年前と同様、住民の死傷者の数や家屋や建物の破壊の規模は、空爆の被害よりはるかに大きくなるだろう。ハマスもそのことは4年前のガザ攻撃の経験から熟知しているはずだ。なのに、なぜイスラエルの地上侵攻に口実を与えてしまう無益なロケット弾攻撃を続けるのか。テルアビブやエルサレムの近郊までロケット弾を飛ばせるのだという内外への「力の誇示」のためか。大都市や首都の近郊までロケット弾が飛来する状況を、「選挙キャンペーン」のためにも攻撃のチャンスを虎視眈々とうかがっていたネタニヤフ政権が看過するわけがない。それらのロケット弾がどれだけのダメージをイスラエルに与えるというのだろうか。ハマス側は「イスラエル人に脅威を与える効果があった」と言うだろう。しかしそれはガザ住民に生命と財産の甚大な犠牲を払わせてもやるに値することなのか。
ガザを実質的に占領し続け、空爆や砲撃で挑発し続けるイスラエルに最大の責任があることは言うまでもない。しかしハマスら武装勢力側も、今後地上侵攻で予想されるガザ住民の重大な犠牲の責任の一端を負わなければならない。ハマス政府が守るべきなのは、組織の「威信」ではなく、住民の生命と財産であるはずだ。
前回のガザ攻撃で、住民のあまりに甚大な被害の実態を目の当たりにした私は、そう思ってしまう。しかし、東エルサレムのパレスチナ人たちはテルアビブやエルサレム近郊へのロケット弾攻撃をまったく違った捉え方をしていることをある青年に教えられた。
イスラエル当局が「エルサレムの都市計画」の名の下に、そのパレスチナ人地区の破壊と住民の排除を計画している東エルサレムのシルワン地区で暮らす青年が、こんな話をしてくれた。
昨日、家に帰ると、家族や近所の人たちがお祝いで大騒ぎしていました。エルサレム近郊にハマスのロケット弾が着弾したことに、「ハマスがやってくれた!」と歓喜しているんです。ある隣人が「万が一、私の家にハマスのロケット弾が落ちても、私はそれを喜んで受け入れる。こんなところまでパレスチナ人が攻撃できるのだから」と言うのです。
イスラエルがパレスチナ人を抑圧するのは「戦争」の時よりも「平和」な時です。見てください。何も起こらない「平和」時にどんどん入植地を拡大してパレスチナ人の土地を奪っていく。私が暮らすシルワンだってそうです。しかし世界は見て見ぬふりをする。世界がパレスチナ人のことを振り向くのは、こういう非常時です。「なぜ無益とも思えるロケット弾を撃ってイスラエルを挑発するのか」と世界は思う。と同時に、その「なぜ」という疑問から、はじめてパレスチナ人の現状に目を向けるんです。外国人はこのロケット弾を「無益」だとか「挑発」だとか言うでしょう。しかしそれは、ずっとイスラエルに抑圧され、虐げられている私たちにとって、私たちの誇りを取り戻してくれる“反撃”なんです。「自分たちはやられっぱなしだけじゃないんだ。パレスチナ人にもこんなことができるんだ」という誇りです。
私の母は専業主婦で、高い教育を受けた人でもありません。そんな母が今、パソコンに向かって、インターネットでガザで何が起こっているのか懸命に知ろうとしているんです。今、ガザで起こっていることが、イスラエルの支配の下で、被支配者として生きることに慣れ切ってしまい、ある意味、パレスチナ人としての誇りも忘れ、諦念の中で生きてきた東エルサレムのパレスチナ人の“誇り”と“アイデンティティ”を呼び戻しているんです。
2012年11月24日(土)午後6時30分~9時
明治大学 駿河台キャンパス リバティタワー
イスラエルのガザ攻撃を許さない緊急集会 ガザで、今、起きていること
映画『ガザに生きる』第五章『ガザ攻撃』先行上映会
現地報告 土井敏邦(エルサレムから中継) ……ほか
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