Webコラム

日々の雑感 310:
(都知事選)私は鎌田慧氏の主張を支持する

2014年2月4日

 私はこれまでこのコラムで、選挙や政治デモなど、現実の政治問題について自分の意見を書くことを避けてきた。自分は何も行動はせず、安全圏に身を置いて、まるで神のような位置に立って、上から目線でモノを言う「評論家」のように、安易に意見だけを言うべきではない、「書くなら、まずきちんと勉強し、主体的に行動を起こしてからやれ」と自分を戒めてきたからだった。
 だから、今回の都知事選挙についても、横浜在住で東京都民でもない私は、少し離れたところから成り行きを見守っていた。
 しかし、日本を代表する社会派ルポライター、鎌田慧氏の必死の訴えに、ジャーナリストの端くれとして、今のまま、立場を曖昧にして逃げ、傍観してはいけないのだと思った。

 鎌田氏はこう書いている。

もしこの選挙で、安倍が勝てば、彼が今まで推してきたすべての悪行(集団的自衛権承認、秘密保護法強行採決、辺野古米軍基地建設強行、武器輸出解禁、原発輸出策動、内閣法制局長官解任、NHK会長指名など)がみとめられ、憲法改悪まで一気にすすみます。

わたしもまた、この原発ゼロを明確に主張している細川さんを勝たせることが、その歯止めになる、と考えています。

ところが、わたし個人にたいする批判は、「私たちが求めているのは票が取れる知事ではなく、信頼できる知事です」(「東京新聞」1月28日【投稿欄】今尾宏子さん)というように、いいひとを落とすつもりなのか、というような「感情論」です。

わたしは、前回の都知事選では、宇都宮さんの立候補決定にも関わっていたし、選挙も応援し宣伝カーにも乗った人間です。それでもまけました。今度は勝たなければならない。なぜならば、そのあとの衆参気委員選挙で勝った安倍政権は、勝ち誇って凶暴、やりたい放題、憲法改悪まで公言しています。

今までよりも、いいひとを応援して負けてもいい、というようなことではすまないところにまで、追いこめられているのです。

(略)
これだけ人命と生活を破綻させた(ヒロシマ、ナガサキ、フクシマの人たちの声がきこえないのですか)原発を止める力があれば、さまざまな問題の解決に向かうことができます。もしもこの選挙に勝ったとき、安倍首相がどういう態度にでるのか想像して見て下さい。

さて、原発の恐怖はわかった。それでなぜ、細川を支持するのか、宇都宮に統一すればいいじゃないか、という意見もあります。それは贔屓の引き倒し、というものです。

それで選挙に勝てますか、との批判がある。というと、選挙の勝ち負けが問題ではない。人柄だ、信頼性だ、といわれてしまいます。

まるで、悪人対善人の対立みたいな論理です。が、この内輪もめを喜ぶのは安倍さんでしょう。細川立候補は、原発反対運動を分裂させるためだ、という意見もあり、小泉は自民党と謀って市民運動を分裂させて、憲法を改悪させるんだ、という「卓見」もでています。

現実を良くみてください。自民党が分裂しかかっています。統一して戦えば勝ち進めれる絶好のチャンスがきたのです。なのに、味方を批判してテキとまともに向かい合わない。なんと幸福なひとたちなのでしょうか。

(略)
わたしは、都知事選での、大胆にして柔軟な、脱原発派、憲法擁護派候補の統一を訴えます。この選挙の重大さ、日本の現実と未来の危機的状況を考えて下さい。

これ以上、味方の候補をあげつらって、安倍政権を喜ばせることは、自分で自分の首を絞める行為に似ています。子どもたちに未来を残すために、ここはいま勝てそうな味方の候補に譲りませんか。

(「なぜ、脱原発候補の統一が必要なのか」より

 私は個人的には、その主張が私自身の考えに一番近く、候補者の中で人間として最も信頼できる人物は宇都宮氏であると思っている。
 しかし、選挙は勝つか、負けるかである。「単独2位になった」と喜んでも、それは自己満足でたいした意味もない。宇都宮氏でこの都知事に勝てるか、と冷静に考えてみると、正直、無理だろう、と私は前回の選挙結果からみて思う。2012年の選挙戦のとき、私のツイッターやフェイスブックの投稿記事は、宇都宮氏支援の声で埋まっていた。「この勢いがあれば、宇都宮さんが勝てるかもしれない」と、正直期待した。しかし結果は、猪瀬直樹氏が投票全体の約65%、430万票を獲得、一方、宇都宮氏はその4分の1にも満たない約97万票で全体の15%だった。つまり私のツイッターやフェイスブックは、同じカラーの小さな“お友達”グループに過ぎなかったのだ。
 「97万票も取った。宇都宮氏の主張を支持する都民が15%もいた」と評価する人もいるだろう。確かに猪瀬氏圧勝の予測の中で、敢然と立ち向かい、まっとうな主張を97万人の都民に届けた功績は立派だ。
 しかし今回の選挙はそれではすまない。この都知事選挙は、舛添氏を候補に立てた安倍政権と自民党を勝たせるか否かの選挙だ。鎌田氏が言うように、「安倍が勝てば、彼が今まで推してきたすべての悪行(集団的自衛権承認、秘密保護法強行採決、辺野古米軍基地建設強行、武器輸出解禁、原発輸出策動、内閣法制局長官解任、NHK会長指名など)がみとめられ、憲法改悪まで一気にすす」ませてしまうのだ。
 それを阻止できる可能性のある候補は、残念ながら、宇都宮氏ではない。そのことを多くの人は感じているはずだ。「しかし宇都宮氏は人間として他の候補よりはるかに立派で、その主張も弱者の立場に立ち、その政策も具体的で、必ず都民の立場になって都政を改善してくれる候補だ」と支持者たちは主張するだろう。しかし投票するのは、あの人種差別主義者で極右の石原慎太郎氏を3回も選挙で都知事に選んでしまう「都民」である。「人間性」「正義」「弱者の味方」といった価値観が選挙人の選択の大きな基準になる都知事選挙とはとても思えない。
 ならば、同じく「脱原発」で闘い、勝てる可能性がより高い細川氏で統一し、舛添氏に対抗していくしかない。
 もし妥協策があるとすれば、すでに複数の人が提案しているように、都知事選挙では「反原発」候補として細川氏に統一し、細川氏の当選後に、宇都宮氏を副知事に選び、「脱原発」政策は細川氏と協力しあい、福祉などの分野では宇都宮氏に手腕を発揮してもらう、というのはどうだろう。

 とにかく、安倍政権、自民党にこの都知事選挙で勝たせてはならない。もし彼らが勝ってしまうと、「都民、国民の信任を得た」とさらに自信を深める安倍政権は、一気に憲法改悪、軍事国家への道を突っ走る。それをなんとしても阻止しなければならない。その一点だけに共通の目標を絞り込めば、「脱原発」「現憲法の堅持」「軍国主義化の阻止」という共通の思いを持つ“仲間”たちが互いに非難中傷することなく、1つにまとまっていけるはずである。
 利己を捨て、批判を覚悟で、日本の危機的な状況をなんとか食い止めようと必死で訴える鎌田慧氏の声を、私たちは今、真摯に受け止めなければならない。

【追記】

 上記のコラムを書き上げてから、「候補者を細川氏に統一を」という主張には、2つの壁があると指摘された。
 1つは、すでに期日前投票した人の票を無効にしてしまう問題である。しかし「期日前投票した人の意思の尊重」と「安倍政権の暴走を食い止めるための候補統一の道」のどちらかを選べと問われれば、たとえ「民主選挙の冒涜」という非難を受けようと、私は後者を選ぶ。
 もう1つは、「告示以降の辞退が法的に許されていない」という重大な問題だ。つまり今となっては法的に「候補統一」にはできないということになる。では候補統一せず、宇都宮氏と細川氏が別々に闘って、いずれかが単独で、自民・公明が推す舛添に勝てるのか。私には、可能性は非常に薄いように思える。私には解決策が見えない。
 ただ、ただ「安倍政権と自民党が推す舛添の勝利を阻止する道」を、宇都宮、細川の両陣営に模索してほしいと、心底願うばかりである。「世論調査では、宇都宮氏の方が、細川氏より高い」「いや、細川氏が上回っている」といった議論はあまりにも虚しい。そんな内向きの議論は、舛添氏に勝てなければ、まったく意味がないのである。もう一度、2012年の都知事選挙の結果を冷徹に分析し、現実を直視すべきだと私は思う。

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