Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(3)大学と病院の破壊の真の意図

2014年8月3日(日)


(写真:爆撃されたイスラム大学本部)

 8月2日、私は早朝に目が覚め、記事を書いていた。午前4時ごろ、突然、「ヒュー」と何かが猛スピードで落下する音がした。その直後、耳をつんざくような爆発音。私の宿舎がある7階建てビルが地震の時のように揺れた。落下地点が近いことは初めて体験する私にもわかった。
 8時に私を迎えにきた運転手が、今朝イスラム大学が爆破されたと私に告げた。あの爆発音がそうだったのだ。私たちはすぐに現場へ向かった。イスラム大学はガザ地区の最高難度の大学で、ガザ中から最も優秀な学生たちが集まってくる名門校である。いわばガザ地区の“東大”だ。2007年、私はこの大学の卒業式を取材した。ガザのエリートたちが誇らしげに大学を巣立っていく様を私はカメラに収めた。その映像は私のドキュメンタリー映画『ガザに生きる』5部作の第四章『封鎖』に登場する。
 封鎖のために経済的にもどん底の状態が続くガザ地区の大学とは思えないほど、立派な建物が立ち並んでいる。まるで欧米や日本の大学の中にいるような錯覚を起こしてしまいそうだ。
 その門に入ると、真正面の大学本部の堂々したモダン建物があった。それが爆撃で無残に破壊され、建物の内部がむき出しになっている。その手前の路上には学生たちの手書きのノートや書類が瓦礫と共に一面に散乱している。
 イスラム大学がガザ攻撃で破壊されたのは、これが2度目だ。2009年1月にも、大学の工学部のビルが空爆され大破した。攻撃終結後にガザ入りし、私がこの大学を取材に訪ねたとき、学生や教員たちが瓦礫の中から使えそうな実験器具や資料などを必死に探している姿は今も鮮明に私の記憶に残っている。
 なぜ大学が爆破されなければならないのか。イスラエル側は、「この大学はハマスの拠点だから」と主張するかもしれない。この大学の創設と運営にハマスが深く関与していことはよく知られた事実だ。だからと言って、ハマス武装部門とまったく関係のない“学究の場”である大学を破壊してもいいという論理は国際社会でまったく受け入れられるものではない。このような理不尽な攻撃の跡を目の前にすると、イスラエルの攻撃が単に「ハマスの戦闘能力を破壊する」というだけではなく、ガザ地区のインフラを破壊することでガザ地区住民全体を“集団懲罰”しようとする、もう一つ狙いが透けてみえてくる。

 イスラエル側の今回の攻撃が単にハマスを攻撃することではなく、住民への集団懲罰であることを如実に示す、端的に示すもう1つの例を挙げよう。
 ガザ地区中部の町デールバラにある公立病院「アルアクサ殉教者病院」は、ガザ中部全体住民の医療を一手に担う重要な病院である。
 イスラエル軍の地上侵攻が始まって4日目の7月21日、病院には通常の病人に加え、イスラエル軍の砲爆撃で負傷した住民たちがたくさんこの病院に押し寄せていた。
 午後3時ごろだった。突然、イスラエル軍の戦車が病棟の3階と4階を砲撃したのである。4階は重傷の患者たちが入院する病室だった。この砲撃で、その部屋にいた子どもの患者2人と付き添いの2人が即死した。その急を知った隣の病室の患者と付き添いが急いで部屋を出た。その直後、その部屋に砲弾が撃ち込まれた。この部屋の患者たちは九死に一生を得た。
 この砲撃で4人の犠牲者の他にも約70人が負傷した。
 事件から2週間が過ぎても現場は、当時のままだった。砲撃された病室のベッドも瓦礫のホコリを被ったままそのまま残され、その1つには血が染み込んだ衣服が置かれたままだった。床には破壊された壁や窓ガラスの破片が飛び散り、足の踏み場もない。砲弾が撃ち込まれた側とは反対側の壁にも砲弾が突き抜けた大きな穴があり、その次の部屋の壁にも穴が出来ていた。つまり戦車の砲弾が3つの壁を突き破ったのだ。砲撃の威力の凄まじさがその現場からも見てとれる。


(写真:戦車に砲撃された病室)

 当時の状況を説明してくれたナシーム・フメイダ医師(40)に、「なぜこの病院が狙われたんですか?」と訊いた。すると医師は首を横に振りながら、「まったくわかりません」と答えた。「カッサム・ロケット弾がここから発射されたわけでもなく、戦闘員がいたわけでもない。ただここにいたのは重傷の患者たちであり、その付き添いの人々だったんです」

 イスラエル軍は「誤爆だった」と説明するかもしれない。ただ言えることは、ハマスの幹部だけでなくメンバーの家もピンポイントで空爆して破壊し、「容疑者」の家族もろとも殺害しているイスラエル軍である。それほどの情報収集能力をもった彼らが、この地域の重要な医療拠点である「アルアクサ殉教者病院」の存在を知らないはずはなく、また日中なら、遠方からでもそこが病院であることは一目で識別できたはずだ。「誤爆」という言い訳は通用しない。むしろ病院さえ攻撃するイスラエル軍の真の意図を探る必要がある。私は、これも先のイスラム大学と同様、背後に「ガザ地区にハマス政権と武装勢力の存在を許してきた一般住民」(イスラエルはガザ住民をそう捉えているような気がする)への“集団懲罰”ではないかと思えてならないのである。

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