Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(6)ピンポイント爆撃による一家の惨殺 [1]

2014年8月6日(水)


(生き残ったサージャ・ゾウロブ)

 ラファ市内唯一の医療機関となったクウェート病院の階上に臨時で設けられた病室のベッドに顔が傷だらけの少女が横たわっていた。
 後頭部に重傷を負い、脱脂綿がテープで張られている部分が盛り上がっている。頭骸骨を骨折したようだ。
 その少女サージャ・ゾウロブ(9)は、他の兄弟姉妹たちとイスラエル軍の攻撃にさらされていたラファ東部から、ラファ市西部にある「サウジ・プロジェクト」と呼ばれる地区の親戚の家に避難していた。しかしまさにその家がイスラエル軍のピンポイント空爆によって攻撃されてしまった。当時19人がいたその家で生き残った4人のうちの1人だった。
 「何が起きたか覚えている?」と私が訊くと、サージャは「夜寝て、目が覚めたら救急車の中でした。その間のことは何も覚えていません」と弱々しい声で答えた。いっしょに避難していた母親や兄弟姉妹たちのうち1人の姉を除いた全員が殺されたことを彼女は知らない。衝撃を与えないために周囲が隠しているのだ。
 彼女の父親はエジプト国籍で、事件の2日前、子供たちをエジプトに避難させるためパスポート申請にエジプトに渡航していたため本人は助かったが、この事件によって彼に残されたのは、幸運にも生き残った2人の娘だけになった。

 事件のあった「サウジ・プロジェクト」地区の現場を訪ねた。この地区は2008~2009年のガザ攻撃で住居を失ったパレスチナ人のために、サウジアラビア政府が支援して出来上がった住宅地区で、新しくきれいな家々が整然と立ち並んでいる。同じガザ地区とは思えないモダンでしゃれた地区である。しかしサージャが被害にあったゾウロブ家は、周囲のきれいな家並の中で1軒だけ完全に破壊されていた。まさにピンポイントである。


(写真:ピンボイント爆撃で破壊された家)

 事件当時の様子を隣人のアーデル・ゾウロブ (40)が語った。
 「金曜日の夜、この家の主人ラファット・ゾオロブは、義母や2人の義姉妹を含む自分の家族や避難してきた親族たち18人と家の中にいました。夜の11時半ごろ、その家を突然、F16が爆撃して、家を完全に破壊したんです。すぐに隣人たちが駆けつけ、瓦礫の中から家族を助けようとしましたが、瓦礫のあらゆるところから黒煙が立ち込めていました。
 救急車の隊員が家の外で3人の遺体を見つけ、隣人たちが家の中から他の遺体を発見しました。それでも発見された遺体は12体で、他の遺体は肉片になっていて、識別できませんでした。翌日の捜索で見つかったのは手足など遺体の一部や肉片だけでした。だから当初はそこで何人が犠牲になったのかわかりませんでした。4人の生存者の話から、そこに19人がいたのがわかったんです。
 家の周辺には身体の一部や肉片が散乱し、隣の家々の壁にも肉片が叩きつけられていました。生後2ヵ月の赤ん坊は50メートル先まで吹き飛ばされていて、ロケット弾の破片を浴びて息絶えていました。この爆撃がどれほど凄まじかったかがわかります。生き残った4人のうち2人は主人ラファットの娘、そして妻の妹の娘2人です。4人とも爆風によって家の外へ飛ばされたため瓦礫の下敷きにならず、助かったんです」


(肉片を手にする証言者アーデル・ゾウロブ)

 隣接する壁の一部が壊れているものの、周辺の家々はそのままの姿で残っている。ラファット・ゾオロブの家だけが瓦礫になっているのだ。F16戦闘機によるピンポイント爆撃の精度がいかに高いかを物語っている。それにしても、なぜラファット・ゾオロブの家が狙われたのか。
 先のアーデル・ゾウロブは私のその問いにこう答えた。
 「この家の主人はどこにでもいる普通の素朴な建設労働者で、この家にイスラエルから指名手配されるような武装兵士がいたわけでもありません。しかもこの家が破壊される前にイスラエル軍から警告は一切ありませんでした。突然F16戦闘機に爆撃されたんです」
 しかしイスラエルがこれほど正確にピンポイントで爆撃し家族もろとも殺害するのだから、ハマスかイスラム聖戦の関係者ではなかったのかと、私はさらに念を押して訊いた。しかしアーデルはそれもきっぱりと否定した。
 「彼はまったく政治に無関心で、どの政治勢力にも所属していなかったし、どこかの政治勢力の支持者でさえありませんでした。まったく素朴な建設労働者です。家には武装勢力に加わっている者はだれもいませんでした。彼の妻もほかの隣人たちも強い衝撃を受けたのはそのことでした。普通の素朴な建設労働者とその家族が、このような残酷な殺され方をしなければならない理由がわからなかったからです。つまりどの家にだって同じことが起こりえるということなんですから」

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