2014年8月10日(日)
(写真:野菜市場)
ガザ地区の庶民の生活はどうなっているのだろうか。私は市場や商店をまわって、この「戦争」が食料や生活必需品の物価にどういう影響を与えているのかを住民や店主たちに訊いた。わかったのは物価が急騰していることだ。その原因として住民や店主たちがあげるのは「戦争」だけではなかった。1年前にエジプトによって大半の地下トンネルが破壊されたことがガザ経済に大きな影響を与えていた。
「すべての物価がトンネルの閉鎖後、跳ね上がりました。シーシが実権を握ってからです」。ジャバリア難民キャンプのスーク(市場)で、住民の1人マーヘル・ユーセフ(48)はそう切り出した。
「トンネル閉鎖後、すべてがイスラエルから輸入しなければなりません。イスラエルは値段を下げず、また税金もかける。さらに封鎖によって検問所から物資が入ってこないこともあります。だから値段が高くなるんです」
「例えばセメントです。トンネルを通してエジプト側から入ってくるときは、1袋20シェケルでした。それが今では100シェケルから200シェケルもするんです。たばこも1箱4シェケルから7シェケルとなり、2倍近くの値段になりました。一番影響を受けているのは燃料の値段です。イスラエルの燃料はトンネルから入ってくる燃料の3倍もするんですよ。『戦争』の影響で値段が跳ね上がったのは農産物です。今は生活必需品だけを買います」
(写真:野菜を売る
アハマド・アルベルバイシ(38))
なぜ農産物が「戦争」の影響で受けているのか。私はガザ市内最大の野菜市場を訪ねた。
この市場内で野菜を売るアハマド・アルベルバイシ (38)は、この「戦争」によって野菜の値段が3倍に跳ね上がったという。
「ガザの農業地帯であるガザ北部やガザ南部の農地がイスラエル軍によって破壊され、砲撃・爆撃さらに戦車などでよって農産物が破壊されてしまいました。だから野菜類が不足し、値段が急騰しているんです。イスラエル軍によって野菜栽培ハウスや果樹も破壊されました。破壊されていない農地でも、イスラエル軍に攻撃を受けるため、農民たちが野菜などに水をやるために農地へ行くこともできません。たとえばトマトです。トマト農園の大半はイスラエルとの境界付近に密集しているために近づけない。トマトは毎日または隔日に水をやらなければならないのに、それができないんです。危ないため収穫にも行けません。そのような理由でトマト生産量の70%が破壊され。トマトの値段は4倍に跳ね上がりました」
「モルフィーエは、夏場はキロ当たり1シェケルだったんですが、今は8シェケルです。夏はトマトの他にもナスやこしょうなど収穫時期で、いつもならこの時期は値段が一番安いはずだが、この『戦争』のために値段が急騰しています。ナスは1キロ当たり1シェケルだったものが、今は4シェケルです。今は野菜が信じられないくらい高くなっているんです」
「パレスチナ人の商人としてイスラエルから野菜を輸入はしたくはありません。しかしそうせざるをえないかもしれません。住民は野菜不足ために苦しんでいんですから。でもたとえイスラエルから輸入できたとしても、トラックの輸送費用などもかさむから、値段がとても高くなってしまいます」
この野菜市場で意外なことを知った。ガザ地区で売られている果物の大半がイスラエル産だということだ。たしかにガザで生産される果物はぶどう、いちじく、ナツメヤシ、ジャワファなど種類は限られているが、果物店にはマンゴーやりんご、西洋ナシまで並んでいる。スイカまでイスラエル産だと聞いて驚いた。この非常時でも、イスラエル産の農産物や商品は検問所を通って確実にガザ地区に搬入されているのだ。それは「人道上」の理由からだけではなさそうだ。イスラエルの農産物や工業製品にとって、180万人の人口を抱えるガザ地区は重要な“マーケット(市場)”なのだ。「戦争」のような非常時でも、イスラエルの商人たちはガザ地区という「おいしいマーケット」を維持し続けるし、イスラエル当局もそれを看過するのだ。
果物店の店主モハマド・オベイド (32)は私にこう説明した。
「イスラエルはガザ地区の農地や果樹園を意図的に破壊し、パレスチナ人の農業経済を破壊しようとしています。これによって私たちガザ住民がイスラエル経済に依存しなければいけない状態を作っているんです」
1年前のトンネル閉鎖によるガザ経済への影響について、もう少し詳しく報告しておく。
ジャバリア難民キャンプのスークで電気店を構えるサリ・アリモキアド(23)はトンネル閉鎖前後の価格の違いをこう説明した。
「このガスシリンダーはトンネルから入ってくる頃は130シェケルでした。しかし今はイスラエルから入ってきて240~250シェケルもします。この電気製品はトンネルを使えた頃は30シェケルでしたが、イスラエルの検問所を通してしか入ってこなくなった今は50~55シェケルです。トンネルが封鎖されてイスラエル側から正規のルートで輸入しなければならないため高くなったんです」
電気店の商売を悪化させているもう1つの要因は電力不足だ。
「『戦争』の激しかった頃は電気がほとんどんなかった。なのに、なぜ使えもしない電気製品を買わなければいけないのかと住民が思うのは当然でしょう。だから売れないんです」とサリは苦笑した。
(写真:雑貨店を営むモハマド・アブアイタ(62))
同じジャバリア難民キャンプのスークの雑貨店主モハマド・アブアイタ (62)もトンネル閉鎖によって大きな打撃を受けた商人の1人だ。
「トンネルから搬入できた頃は、品物を適切な価格で手に入れることができました。でも今はすべてがイスラエル検問所を通して入ってきます。値段が高く、税金もつけられてしまいます。建設資材は今も搬入が許可されていないんです。ガザで生産される缶詰(トマトペーストや豆類など)は今でも適切な値段ですが、イスラエル側から検問所を通して入ってくるツナや肉の缶詰はとても高い値段になりました。例えばタイ産のこのツナの缶詰は、以前は1個3シェケルだったが、今は6シェケルです」
モハマドが語った食品急騰のもう1つの理由は、イスラエルによるガザの工場破壊である。前回、「パイオニア」社の缶詰製造工場の破壊についてすでに報告したが、もう1つガザ最大の製菓会社「アルアウダ」工場がイスラエル軍の砲撃で完全に破壊され、この会社がガザ地区で大きなシェアをもっていたため、ビスケットなど菓子の値段が品薄で急騰した。
「工場は何年も機能できないでしょう。このアルアウダ・ビスケットは、この店にはこの2箱しかないんです。1箱32シェケルでしたが、今は37シェケルになってしまいました」
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