Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(12)電力不足が引き起こす下水問題(1)

2014年8月16日(日)


(写真:下水の溜池となったジャバリア難民キャンプの貯水池)

 人口約18万人、ガザ地区最大の難民キャンプ「ジャバリア」の中に、幅が100mほどの大きな貯水池がある。イスラエル軍による占領統治下にあった1990年代初期までインフラ整備はまったく行われなかったために、この池は下水の溜池となり、傍を通ると悪臭を放っていた。自治政府の管理下なってから、やっと傍に下水処理の整備が整えられ、池の周囲も石材で囲まれた。これによって、夏場は空の池となり、雨季の冬には大量の雨水を貯めるきれいな池となっていた。
 しかし今回の「戦争」によって、この池は再び、下水の溜池になってしまった。なぜか。
 この貯水池の管理責任者アブドゥルアジズ・アルマカドゥマ(49)は、その最大の理由は、戦争以後の“電力不足”だという。
 「戦争前は8時間ごとに電気があり、それによってここに集まってくる下水をポンプで4キロほど離れた北部の下水処理場へ送り出し、夏場にはこの池をなんとか乾燥状態に保つことができました。しかし『戦争』が状況を悪化させてしまいました。『戦争』の最中には、電気は1時間以下、時にはまったく電気がない時もありました。そのために下水を他の処理場へ送るポンプが使えず、集まった下水をこの池に溜めるしかなかったんです。その結果、この池は下水で2mほどの深さにまでなってしまいました。
 3日前にやっと3000リットルの燃料を手に入れました。それで発電し、汚水の一部を北部の下水処理場へ送ることができました。ここには大きな発電機があり、1時間当り80リットルの 燃料を消費します。1日に20時間ほど稼動させるので、消費量は1600リットル、毎日1600ドルほどの費用がかかります。封鎖による燃料不足と担当役所の予算不足のために、いつも燃料を供給できるわけにはいかず、どうしても、下水をこの池に溜めるしかなくなっています」
 「今はこの下水の底に1mほどの汚泥がたまっています。この冬までこのまま放置すると、この池の貯水能力は2m分ほど減り、冬場に雨水があふれ出てしまいます。しかもその水は汚泥によって汚染されることになります。ですから、冬になる前にこの汚泥を除去しなければならないのですが、そのためには、10台のトラックと2台のブルドーザーを使っても1週間ほどはかかってしまいます」


(写真:貯水池の管理責任者アブドゥルアジズ・アルマカドゥマ)

 アルマカドゥマが最も懸念することは、この下水の溜池による住民の健康への悪影響だ。この池からほんの30mほど離れたところにUNRWA(パレスチナ国連難民救済事業機関)の飲料水の井戸がある。このまま下水の池を放置すれば、汚水が地下水に浸透し、汚染されかねない。また下水のために蚊が大量に発生し、それがマラリアなどの病気を引き起こす。なんとか一日も早く、その下水を北部の処理場へポンプで送り出したいが、電気不足でそれがままならず、代わりに発電機を使って処理しようとしても、今度は燃料不足と予算不足で行き詰ってしまう。
 電力不足によって、ジャバリア難民キャンプの大量の下水は今、行き場を失い、住民に深刻な環境問題、健康問題を引き起こしつつある。

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