Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(13)電力不足が引き起こす下水問題(2)

2014年8月17日(月)


(写真:危機的な状況を説明するラジャーブ・アルアンカ所長)

 たとえ電気が回復し、ポンプで順調にジャバリア難民キャンプから北部の下水処理場への下水を移送できたら、ガザ北部の下水問題は解決するかと言えば、現実はさらに厳しい状況にある。
 私たちはジャバリア難民キャンプから汚水が移送される、4キロほど北のベイトラヒヤ下水処理場を訪ねた。「ベドウィン・ヴィレッジ」と呼ばれる荒野の一角にある広大な敷地には200〜300メートル四方ほどの溜池が7つ並んでいる。
 ラジャーブ・アルアンカ所長(49)が、この下水処理場の簡単な流れを説明してくれた。
 それによれば、各地から送られてくる下水が溜池1と2にまず貯められる。本来なら、それを溜池3〜6に移送して、その下水を機械で撹拌(かくはん)して空気を取り込み、バクテリアで分解させて処理する。それだけでは不十分なため、ここである程度まで処理された汚水をさらにガザ東部にあるもう1つの処分場へポンプで移送し、そこでさらに処理され、最終的には農業用水として利用できる──これがガザ北部における下水処理の計画だった。
 しかしそれはほとんど実現していない。その大きな原因の一つは、ベイトラヒヤ下水処理場に集まってくる下水の量が、現在では当初の予想をはるかに上回っていることだ。
 「現在、ここには周辺の町や村、難民キャンプから通常毎日3万立方メートルの下水が集ってきます。しかし10年前に建設されたこの下水処理場が処理できるのは3分の1の1日1万立方メートルでしかないんです」と アルアンカ所長は言う。
 もう1つの原因は、この10年間、溜池がまったく清掃されず、底の大量の汚泥が蓄積し、ここで溜められる下水の量が大幅に減少してしまったことだ。所長は清掃ができなかった理由を「電気不足と資金不足のためです。1つの溜池の汚泥を取り出すのに35,000ドルが必要になります」と説明した。
 そして最大の問題は、電力不足である。電気が十分でないために、溜池を機械で撹拌して一定の下水処理をすることさえできない。一方で、処理能力を超えた大量の下水が毎日集まってくる。仕方なく、ほとんど下水処理されないまま、東部の下水処理場へ移送するしかない。しかし電力不足で、持ち込まれる分の汚水を東部の処理場へポンプで移送することもできない。たとえ移送できたとしても、その東部処理場でも電力不足で汚水処理ができず、そのまま溜池に放置するしかない状態だ。
 このような状況だから、ベイトラヒヤ下水処理場では6つの溜池では間に合わなくなり、さらに隣接する窪地に臨時の溜池7を作ってそこに移送している。だがそれも2週間ほどで満杯になりそうだ。


(写真:新設された溜池7に流れ込む下水)

 アルアンカ所長は私を、その溜池7の端に案内した。すると溜池の土手の向こう側に、広大な農地が広がり、民家が点在していた。ガザ最大の農業地帯ベイトラヒヤ村である。
 「もしこの溜池から下水があふれ出すか、土手が決壊してしまえば、それはここより10m低いベイトラヒヤ村に流出してしまいます。そうなればこの村の農業と2000〜3000人の住民の生活に大惨事をもたらします。この地域の住民が飲み水として利用している地下40メートルほどの地下水がさらに汚染されます。実際、ベイトラヒヤ村の地下水はこの下水処理場のためにすでに汚染されているのですが、汚水が村に流出してしまえば、もう利用できなくなるでしょう。それが2週間後には起こってしまうのではないかと私は恐れています」
 アルアンカ所長はベイトラヒヤ村を眼下に見下ろしながら、私にそう語った。


(写真:溜池7が決壊したら、大惨事となるベイトラヒヤ村)

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