2014年8月20日(水)
(写真:アハマド・アブハリマと枯れたキュウリ)
8月10日のコラムで、野菜の値段が高騰していることを報告した(急騰するガザの食料品)。なぜ野菜が高騰しているのか。私はガザ地区最大の農業地帯の1つ、ガザ北部のベイトラヒヤ村を訪ねた。
村で出会った農民アハマド・アブハリマ(65)が自分の野菜栽培ハウスへ私を案内した。ハウスの中に入ると、そこで栽培されていたキュウリはすべて枯れ、黄ばんでいた。すでに成長したキュウリも黄色に変色している。
「ラマダン(断食月)の10日目から12日目頃からこのキュウリを収穫するつもりでした」とアハマドは言った。「しかしイスラエル軍が爆撃を始めたから、この地区から避難せざるをえませんでした。爆撃が続いている間は危険で、ここへ戻って来ることができませんでした。25日後、やっと休戦になって戻ってみると、この様です。このキュウリのハウスは3ドナム(3アール)の広さです。 このキュウリを育てるため、肥料や水などに約1万ディナール(約150万円)の金を費やしたんです」
アハマドによれば、まだ爆撃が続いている頃、近所の青年たちが野菜に水をやるために畑に戻ろうとした。しかしその青年の1人が無人偵察・攻撃機「ドローン」のミサイル攻撃で殺害された。その後、村人は畑に近づくことを諦めた。
アハマドが次に案内したのは、瓜畑だった。15ドナム(1.5ヘクタール)の畑に瓜が広がっていたが、葉は枯れ、大きくなっている瓜のほとんどが腐っている。ここも水がやれなかったために枯れて腐り、出荷することができなかった。本来なら、ラマダンやその後のイドゥ(祝日)の時期は需要が高く、1キロ当り2.5シェケル(約80円)の高値で売れ、1ドナム当り3000ドル(約30万円)の収益が上がるはずだった。アハマドはそのすべてを失った。
さらに私たちはトマト畑へと向かった。全部で40ドナム(4ヘクタール)もある広大な畑は見渡す限り、収穫されない黄色がかった赤いトマトが広がっていた。しかし大半が収穫時期を過ぎ、商品にはならないという。
「収穫しようとした時にイスラエル軍の攻撃が始まり、ここから逃げるしかありませんでした。30日間、近づけなかったです。水もなく、暑い日ざしのために、トマトは全部駄目になってしまいました。1ドナム当り2500ドル(約25万円)の収益が上がるはずだったです」
(写真:アハマドのトマト畑)
この取材途中で、家畜の牛をイスラエル軍の攻撃で失った農民に出会った。
ヤセル・ターフェシュ(61)は、10頭の乳牛と22頭の肉牛、計32頭の牛を飼っていた。イスラエル軍の地上侵攻が始まった7月18日に家が攻撃されて一部が破壊され、息子の1人が負傷したため、危険を感じてこの地区から避難した。休戦時期に戻ってみると、砲爆撃によって11頭の牛が死に、3頭のラクダも失っていた。牛舎には死んだ牛が、半ば腐乱したまま、放置されていた。生き残った牛は他の場所に移送したという。
「1頭の乳牛は1日30キロの乳を生産していました。肉牛も1頭当り1500ディナール(約23万円)で飼い、今は2000ディナール(約30万円)の値がつく牛になっていました。ナス畑の被害まで入れると、損失は7万ディナール(約1100万円)になります」
(写真:死んだ牛とヤセル・ターフェシュ)
ベイトラヒヤ村の農地を車で走っていると、立ち枯れしたトウモロコシ畑があった。車から降り、畑にいたその持ち主の青年に話を聞いた。
ハリール・ゾゴンダル(25)は、「20ドナム(2ヘクタール)のこのトウモロコシは全部枯れてしまった。周辺で爆撃があり、畑に水をやるために発電機を回しに来ることもできず、また燃料も尽きてしまった」と訴えた。ハリールによれば、他にも30ドナム(3ヘクタール)のぶどう畑も、また4ドナム(4アール)のビニールハウスの野菜も同様に枯らしてしまったという。
水をやれなかった理由の大きな原因の1つは、井戸がイスラエル軍に破壊されたからだとハリールは言った。
(写真:立ち枯れしたハリール・ゾゴンダルのトウモロコシ畑)
イスラエル軍が農業用水となる井戸を破壊したという話を私は初めて聞いた。キュウリのハウスやトマト畑へ私の案内してくれたアハマドが、破壊された井戸へ案内した。
現場に着くと、そこには大きな穴が開いていた。アハマドによると、かつてここにコンクリート製のポンプ小屋があったが、F16の2トン爆弾によって破壊され、このような巨大な穴ができたのだという。この井戸は周囲の30ドナム(3ヘクタール)の畑に水を供給していた。
(写真:F16戦闘機で爆破され大穴があいた井戸跡)
近くにももう1つ鉄筋コンクリートの建物が破壊され、屋根が押しつぶされていた。その瓦礫の下で、1つだけ井戸が動いている。ここには2つの井戸があったが、1つは崩壊した屋根の下敷きになって破壊され、もう1つの井戸がかろうじて残った。これらの井戸は約200人の農民の60ドナム(6ヘクタール)の畑に水を供給してきたが、今はそれもできなくなった。
(写真:イスラエル軍に破壊された井戸の建物)
「なぜ井戸が破壊されたのか」と訊くと、アハマドはこう答えた。
「イスラエル軍は北部の農業地帯を通って居住地区に侵攻していきました。その途上で、畑や井戸を破壊していったんです」
これだけの被害を受けた農民は、今回の「戦争」(彼らはそう呼ぶ)とハマスをどう見ているのだろうか。私は日本にいる時から抱いていた疑問をアハマドにぶつけてみた。
(Q・日本では「ハマスがロケット弾をイスラエルに撃ち込むためにイスラエル側の激しい攻撃を受け、住民が甚大な被害を受けている。だから住民はイスラエルだけではなく、ハマスにも怒っているはず」という見方があるが、あなたはどう思いますか?)
「ガザは長さ50キロほどの狭い地域です。そのガザ地区がイスラエルによって厳しい“封鎖”の状態に置かれてきました。水も電気も十分に手に入りません。学生たちが外国へ留学することもできない。ガザの外へ旅行しようとしても、イスラエルとエジプトによって制限される。だから我われがそれに抵抗するのは我われの権利です」
(Q・しかしハマスがカッサム・ロケット弾を撃ち込むことで、住民はいっそう苦しむことになりませんか?)
「ハマスなどがロケット弾を撃つのは、我われが狭い地域に高い人口密度の中、封鎖の下で暮らさなければならないからです。もし私たちがイスラエル人と同じような暮らしができるなら、ロケット弾を撃つこともないでしょう。ロケット弾はイスラエルが私たちにやっていることへの怒りの反動なのです」
(Q・ではイスラエル軍による被害は受け入れられますか?)
「ええ、私は受け入れます。これで3度目です。3度の「戦争」でひどい生活です。私はイスラエル側から何も期待ません。私たちは自分に起こったことを受け入れます」
(Q・ハマスの人気はこの「戦争」で上がるでしょうか、それとも下がるでしょうか?)
「その成果によって、上がるか下がるかが決まるでしょう。この「戦争」によっていい結果、たとえは封鎖を解除するなどの成果が出れば、人気は上がるでしょう。しかしもし何の成果も上げられなかったら、ハマスの人気は下がることでしょう」
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