Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(16)海を追われる漁師たち

2014年8月21日(木)


(写真:港の中で漁をする漁師たち)

 2011年12月、3年ぶりにガザ地区に入ったとき(イスラエルのプレスオフィスにプレスカード発給を拒否され、エジプト側からガザ入りした)、私はガザ市の漁港や魚市場を取材した。その映像は10月に公開する『ガザに生きる』第四章「封鎖」の中に収録されている。夜明け前のガザ漁港には、暗闇の中、大小の漁船が港を出入りし、海から戻ってきた船からいろいろな種類の魚が陸揚げされていた。当時、ガザの漁師たちは、イスラエルによって沖3マイル(約5キロ)までの漁しか許可されていなかった。それでも、エジプト側の海域には自由に出入りできた。魚市場の仲買人は、ガザ市の魚市場で取引される魚の大半は、エジプトの漁師たちから購入した魚だと教えてくれた。エジプトで獲れた魚が、海上でのエジプトの漁師とガザの漁師の直接売買によって、またラファの地下トンネルを通してガザに入ってくるというのである。そして漁船と地下トンネル経由で魚がガザ入りしたときに魚市場が開かれた。私が取材した朝は、市場は仲買人たちであふれ、威勢のいい掛け声が響き渡っていた。

 あれから、3年、再訪したガザ漁港は静まりかえっていた。
 「イスラエルの攻撃が始まってから、海で働くことができません。休戦の今でも、もし50メールも港を出れば、イスラエル軍は我われに砲撃をしてきます。だから休戦中であっても、漁の仕事ができないんです。最初は6マイル、それから3マイル、そして今はその距離までも沖に出られません」
 海岸で投げ網の修理をしていた漁師のサラ・アブリアラ(42)が私にそう語った。
 近くで数隻の小型船が動いていた。堤防で囲まれた港の内側の海で網を張り、漁をしているのだ。獲れるのは小さなエビやカニが大半で、ほとんど収入には結びつかない。
 「今日獲れたのは、これだけです」とサラは、箱に入った小さなカニ20匹ほど、小魚10匹ほどを私の前に差し出した。「400シェケルの燃料費を使って獲れたのが、これだけなんですよ」とサラは言う。
 「以前は、漁で9人の家族を養えました。しかし今はそれもできず、義兄から500xA袈00シェケルを借金し、組合からも借りました。また近所の八百屋や雑貨屋にツケで食料を手に入れ、なんとか食いつないでいます。
 エジプトでのハマス側とイスラエル側の休戦交渉で、漁に出られる海域を広げてもらい、状況が好転すれば、漁で稼ぐ金で返金できると思いますが、ゲームのような交渉ですからどうなるかわかりません」

 今回のガザ攻撃の初期、イスラエル海軍の砲撃で、港にあった漁師たちが漁の道具などを保管していた倉庫が砲撃され、完全に破壊された。今は港から少し離れた沖合いで漁をするだけでも攻撃されかねないほど、危険な状態だ。
 しかし海で漁をする漁師たちへのイスラエル軍の攻撃は、今回のガザ攻撃で始まったことではない。今回の「戦争」の20日前には、ラファの沖合い2キロほどの所で漁をしていた若い漁師がイスラエル軍に撃たれ、片腕を失った。3年前に取材した時も、イスラエルとの国境近い沖合い(ガザ地区内で5キロ以内)で漁をしていた青年が射殺されたという話を聞いた。
 ガザの漁師たちにとって、漁の妨害をするのはイスラエルだけではない。エジプトでシーシ元将軍(現大統領)が実権を握ってから、以前のように自由にエジプトの海域にガザの漁師たちが立ち入れなくなった。
 サラによれば、現在、エジプトの刑務所にガザの漁師6xA祁人が投獄されているという。エジプトの海域で漁をしていたためだ。家族は5000エジプト・パウンドの罰金が課せれた。現在、ガザの漁師たちはイスラエルからだけではなく、エジプトによっても苦しめられていることになる。

この「戦争」によって仕事ができなくなっている漁師サラはこの「戦争」と、ハマスによるロケット弾攻撃をどうみているのか、訊いてみた。

(Q・ハマスがカッサム・ロケット弾をイスラエルへ撃ちこむことをどう思いますか)


(写真:漁師サラ・アブリアラ)

「私はハマスの武装闘争を支持します。ロケット弾の射程距離が改良され、さらにイスラエルの奥深くまで到達すればいいと願っています。なぜなら、イスラエルは武力という“言葉”しか理解できないからです。武力の“言葉”以外から我われはイスラエルから何も得ることができません。一方、アラブ世界は我われパレスチナ人の味方ではありません。アラブ諸国が団結していれば、今のようなイスラエルの行動はとれなかったでしょう。だから私は強く武装闘争を支持します」

(Q・でもカッサム・ロケット弾発射の「報復」としてイスラエル側は大規模な攻撃をパレスチナ人住民に加え、多くの住民が殺傷され家屋が破壊されています)

「この戦争の前から、イスラエルは我われに厳しい制限を課し、漁師は沖で自由に漁をすることもできなかったんですよ。しかし武装闘争があったから、今、休戦交渉でパレスチナ側はイスラエルに対し、漁業区域をもっと広めるように要求できるようになったんです」

(Q・この戦争で漁の区域が広がると思いますか)

「私はそう思います。たとえイスラエルが封鎖を解かず、海の海域も広げないとしたら、武装勢力はまたロケット弾をイスラエルに撃ちこむでしょう。私はそれを支持するし、武装勢力の味方です。武装闘争は我われの奪われた権利を取り戻すためなのです」

(Q・この「戦争で2000人のパレスチナ人が殺され、1万人を超える人々が負傷しました。また数十万人が家を追われ、避難民となりました。もしこの「戦争」でパレスチナ側が何の成果も得ることができなければ、これらの犠牲はすべて無駄だったことになりませんか?)

「たとえイスラエルが我われガザ住民の大半を殺しても、私たちは闘い続けます。イスラエルから我われの権利を取り戻すまで、私たちは決して諦めません。もしイスラエルが我われの要求を受け入れないのなら、またロケット弾を撃ちこみます。私はそれを支持します。なぜなら、それが私たちをイスラエルから守る唯一の道だと思うからです」

(Q・この「戦争で、ハマスの人気は上がると思いますか)

「ハマスの人気は「戦争前の5倍ほどに上がるでしょう。戦争前はファタハを支持していた者でも、今はハマスを支持しています」

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