2014年8月23日(土)
(写真:列を成す空のガスボンベ)
自然災害などで生活基盤をすべて失った人たちは、生活再建のためにまず何から復旧しようとするだろうか。まず住処。水と食料。電気。そしてもう1つは調理ためのガスだろう。今回のガザ攻撃でその水と電気の供給源が一時破壊されたことはすでに報告した。もう1つが調理用のガスだ。これもまた国境の検問所を通してイスラエルから供給されるが、今回の「戦争」でその供給量が激減した。そのため住民は、調理用のプロパンガスを求めてガザ各地のガス供給所の前に長い列ができている。
8月17日、私は、イスラエルとの国境に近いガザ市の東部アベドラボ地区(ここは2009年のイスラエル軍地上侵攻の際、大半の家屋が破壊された)にあるプロパンガス供給所を訪ねた。危険な施設だからだろうか、多くのガス供給所はイスラエルとの国境沿いにある。そのため、一旦、「戦争」状態なれば危険で近づけない。だから多くの住民が家庭で使うプロパンガスが空になってしまい、調理もできない状態に陥ってしまった。
私が休戦中に訪ねた供給所も1週間ぶりに開いたという。入り口を入ると、広場には空のガスボンベの蛇のように曲がりくねった長い列ができていた。
空のガスボンベにガスを注入する作業所に行くと、10人ほどの男たちが10箇所ほどのスタンドの前で忙しく動き回っていた。空のガスボンベ取り入れ口にすばやくガス供給器を取りつけ、必要な量と値段を記した電子文字盤を押す。すると1〜2分で18キロ容量のガスボンベが満タンになる。するとすぐに取り外し次のガスボンベに供給器を付け替える。供給器がガスボンベから離れるその一瞬の間にもガスは勢いよく外に噴出す。それが10箇所のスタンドから漏れるから、作業所中にガスの匂いが立ち込める。ここでたばこでも吸おうものなら、大爆発を起こしかねない。しかし作業する男たちは、その漏れるガスに気を止めることもなく、次々とガスボンベを満たしていく。作業員たちが押した電子文字盤の数値は、離れた管理室の会計担当者のコンピューターに表示され、客たちはその代金を会計の窓口で支払うシステムである。
(写真:調理用ガスの注入作業)
「注入したガスの量ですぐに値段が表示されるこのコンピューター・システムはガザで開発されました」と、サミール・ハマダ所長(45)と言う。
ちなみにガス料金は、12キロ用の家庭用の小さなガスボンベで18ドル(1800円)、業務用の48キロの大きなボンベを充填するのに72ドル(7200円)かかる。収入のない、または少ない平均のガザ住民にとって大きな負担だ。その価格がいかに高いか、エジプトでの料金12キロ用ボンベの注入費用(1.5〜2ドル)と比較するとよくわかる。
そのハマダ所長が、ガザ地区における調理用ガスの供給と需要の現状をこう説明した。
「ガザ全体で毎日250トンの調理用ガスが必要です。しかしイスラエルが供給するのは140〜150トンだけです。しかも時には封鎖で入ってきません。だからガザでは、調理用ガスが不足しています。だから、このように空になったボンベでガスを注入するために人が殺到することになんです」
「平時なら、この供給所は週5日間稼動し、通常、毎日20トンのガスは入ってきます。それを病院やレストランなどに供給し、残りをこうやって一般住民に提供しています。しかし『戦争』中は、イスラエルの検問所が開いているときだけしかガスは入ってこず、限られた日時しか稼動できません。だからこれほど客が殺到します。しかしこれほど混雑すると、危険です。何かのきっかけで爆発が起きると、多くの住民が死傷することになりかねません」
このガス供給所にトラック一杯の空ガスボンベを積んでやってきたガス配達業のアイマン・アルナマラ(44)は、住民のガス不足状況をこう語る。
「私は住民から毎日約100個のガスボンベを集めていますが、今は毎日集められません。イスラエルが必要な量のガスを供給しないからです。だからガスを注入できないボンベの数がどんどん増えていきます。住民の需要に追いつかないんです。イスラエルによる封鎖でガスが供給できない時でも、住民か携帯に電話がかかってきて、シリンダーを取りに来てほしいと頼まれます。しかしそれにガスを注入できないので住民の要求にこたえられないんです。ガスは日常生活に不可欠なものです。現代社会においては昔のように木を燃やして火を起こすことなどできませんから」
ガスの注入を待つ客の1人モハマド・ナイーム(28)が、こんな話をしてくれた。
「『戦争』中に、パン屋を営んでいる従兄弟がガスを注入してもらうためにガス補給所へやってきました。しかし補給所でガスを入れて帰る時にイスラエル軍に空爆され殺されてしまいました。まだ34歳でした。傍にいたもう1人の男も殺されました。私自身もガス補給所でボンベにガスを充填しているときに、突然、近くでイスラエル軍の砲撃が始まりました。だから急いで逃げ帰りました」
実際、イスラエル軍の攻撃を受けたガス供給所もある。ガザ市から10キロほど南に下った海岸沿いにある。「ダーバン社」の社長モハマド・アルクダリ(47)の話によれば、このガス供給所が攻撃されたのは7月31日午後2時ごろだった。突然、イスラエル軍に砲撃されたのである。真っ先に被弾したのは容量100トンと60トンの2つのガスタンクだった。合わせて123トンのガスが入っていたタンクに火がつき、ガスが燃え尽きるまで2日間、手のほどこしようがなかった。他にも周囲に並んでいた空のガスボンベも被弾し大きな穴が開いた。損失額は20万ドル(2000万円)になるとモハマドは言う。
「なぜガス供給所が攻撃されたのか」という私の質問に、モハマドはこう答えた。
「ここはガス製造工場でもなんでない。ただイスラエル側から輸入したガスを配給するだけです。ここを攻撃すれば、イスラエル側も損害を受けることにもなります。だから『ガザ経済の破壊』という目的ではないと思います。ただ単にイスラエル軍兵士たちによる “目的もなく破壊する蛮行”でしょう」
このダーバン社がイスラエル軍の攻撃を受けたのは今回が初めてではない。2008年のガザ攻撃の時も一部を破壊された。今回が2度目である。
(写真:社長モハマド・アルクダリと穴の開いたガスボンベ)
アルクダリ社長がイスラエル側からガザ地区に調理用ガスを輸入するプロセスを説明してくれた。
「まずヨルダン川西岸ラマラ市にあるパレスチナ自治政府に必要なガスの量を申請します。そのガスはイスラエルとの検問所「ケロームシャローム検問所」を経由してガザに入ってきます。そのやり方はこうです。まずイスラエル側からトラックでガスがケロームシャロームに運ばれてきて、そこにある大きなガスタンクに移されます。そのタンクにはバルブとパイプがついています。そこにパレスチナ人のガス輸送トラックが行き、タンクのバブルとパイプからそのガスをトラックのタンクに注入し、ガザ内に持ち込むのです。料金はラマラの自治政府に支払います。そして自治政府がイスラエル側に料金を支払うのです」
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