Webコラム

ルポ「絶望の街─ガザ攻撃から15ヵ月後─」(5)

(2016年2月24日 公開)


写真:ハマス政府の警察官/2011年12月・ガザ・土井撮影

ハマス内部からの告白(前編)

 2014年夏ガザ攻撃の被害住民たちの失望と怒りをハマス側はどう受け止めているのだろうか。ハマスの幹部たちにインタビューを申し込んだが、返答はなかった。しかし知人に紹介されたハマス政府の役人アリ・ハッサン(仮名/47歳)がインタビューに応じた。

Q・「戦争」から15ヵ月後の今、ハマス政府への失望が高まっているが、どう見ていますか?

 「ハマスが戦争を始めた時ガザは惨めな状況でした。それが戦争を始めた動機でした。しかし戦争は状況をよりよい状況に変えることはできませんでした。民衆は各々違った政治的な意見を持っていても戦争になれば イスラエルに対し、団結しました。しかし戦争が終わり 状況が落ち着くと、住民は被った損失、打撃、死傷者に目を向け始めました。
 一方、停戦交渉のためにカイロに行ったハマス代表団は住民の被害に相当する対価を得ることができませんでした」

Q・PA(自治政府)の腐敗への怒りから誕生したハマス政府がなぜ腐敗したのですか?

 「お金は人間を変えてしまいます。ハマスはメンバーや指導者たちの破壊された家々の再建を優先させた、その通りです。ハマス指導部は住民を自分たちのように扱わなかった。それがハマスの失敗です。ハマスは自治政府から権力を引き継ぎ、その"シャツ"を身につけ同じ"場所"に座ってしまったのです。だからその地位や行動が感染してハマスに移ってしまいました」

 「ハマスが政権を取る前にモスクを中心に活動していた時は、ハマスに公正、寛容、清廉、献身がありました。しかし権力を手にし誘惑や金や利権を前にして腐敗へ感染してしまったのです。これは人間によくあることです。ハマスがその活動の評価や是正のために十分立ち止まりそれに注意を払ってこなかった。ハマスにはしっかりした"自己監視装置"が欠落しています。ハマスの中で自己監視が十分に機能しなかったのです。過ちを正すことが出来ないのです。賛辞が批判よりもハマスの中で重大なのです」

 「ハマス政府が成立して以来、多くの腐敗が明らかになりました。しかしそれは 世論にさらされることはありませんでした。腐敗を覆い隠す戦略によってです。そのために腐敗が継続され増幅されました。その戦略が社会全体にうまく機能したからです」

Q・ハマス政府を非難すると弾圧されるから公に批判できないという住民の声を聞きましたが?

 「ガザにおいて重要なのは"レジスタンス(抵抗運動)"です。大きなレジスタンス組織が権力を持った時、レジスタンスの名において住民を沈黙させることができます。住民を力で抑え込むことができたのです。なぜならハマスはレジスタンスを率いているからです。レジスタンスはパレスチナ人の大義であり神聖なのです。その名において住民を弾圧できます。たとえ それが間違いであり、犯罪であり公正や寛容に反することであってもです。レジスタンスの名を借りて住民を弾圧する者たちがいます。
 しかしそれは組織としてのハマスの姿勢ではありません。一部の者たちが口実に利用するのです。個人ではなく、グループによる行動です」

Q・しかしそれは一部のグループではなく、もっと大きな組織ぐるみの動きでは?

 「このような小さなグループはどこの地域にもいます。地域で力を持つグループが権力を濫用しても誰も止めることは出来ません。ハマス内部や軍事組織の"自己監視"の機能がとても弱いのです。形骸化しているために機能していません。そのために行き過ぎた行為を止められないのです」(続く)

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