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日々の雑感 396:
誕生日メッセージ、ありがとうございました

2021年1月10日

 誕生日メッセージ、ありがとうございました。

 68歳になりました。「勤め人」ならとうの昔に定年退職し、第二の人生を楽しんでいる年齢でしょうが、フリージャーナリストの私たちには「定年」はありません。相も変わらず、劇場公開できるあてもなく、延々とドキュメンタリー映画を作り、ルポルタージュを書き続けています。

 去年は、新型コロナウィルスのために、海外はおろか国内の取材にも出られず、ひたすらこれまで取材し蓄積してきた素材を元に、映画の編集に専念してきました。その結果、昨年中にパレスチナに関する4本のドキュメンタリー映画を作りました。

1)『ガザは語る』(3時間45分)
イスラエルの封鎖と攻撃、ハマス政府の圧政による貧困と絶望にあえぐガザの青年たちを中心にガザ住民の叫びの声を記録した。
2)『シルワン―侵蝕される東エルサレム―』(2時間20分)
東エルサレムのパレスチナ人住民は「違法建設物」の名目で次々と家屋を破壊され、一方で、パレスチナ人地区に続々とユダヤ人入植地が建設されていく。イスラエルによる“エルサレムのユダヤ化”政策という“構造的暴力”の実態を描く。
3)『“イスラエル人”を生きる』(1時間57分)
ホロコーストで全家族を失った父が逃れたアルゼンチン。そこで熱烈な「シオニスト右派」となったユダヤ人青年がイスラエルに移住。しかし兵士として体験した戦争など「祖国」の実像と占領下のパレスチナ人を知り、変遷していく。
4)『沈黙を破る・Part2』(3時間58分)
占領地で兵役を体験したイスラエル軍将兵たちの証言を“縦糸”に、20年間にヨルダン川西岸とガザで撮影してきた私の記録映像を“横糸”にしたドキュメンタリー。2009年に公開した「沈黙を破る」の続編で、私の35年間のパレスチナ取材の集大成。

 1)、2)、3)のような映画はテーマが専門的すぎて、日本では「一般受け」しないと自覚し、当初から劇場公開は諦めています。むしろ海外とりわけ“パレスチナ”に関心の高い欧米の観客を意識して制作しています。ただ4)「沈黙を破る・Part2」だけは、“加害意識”“大勢に抗う生き方”など、日本社会にも通じる普遍的なテーマを描いているために、日本での劇場公開を視野に置いて作りました。

 私はこれまで十数本の「パレスチナ関連ドキュメンタリー映画」を制作してきました。しかしまったく採算が取れず、作れば作るほど赤字は膨れ上がっていきます。
 それでも作り続けるのは、35年間の“パレスチナ”との関わりが自分の人生にとって何だったのかを記録するためのような気がします。自分が現場でどういう事象を目撃し、どういう人と出会い、何に衝撃を受け、何に感動し、何に怒り、何に泣き笑いしてきたのか――それを映像と文章で記録し、自分が“生きた証(あかし)”を刻み込む営為です。
 「自己満足のための映画作り」と嘲笑されるかもしれません。しかし私が制作した“パレスチナ”のドキュメンタリー映画は今はほとんど評価されなくても、作り手のそんな独りよがりの思いを超えて、50年後、100年後に“パレスチナの歴史の貴重な記録”として意味を持つ時が必ず来るはず――そう信じて作り続けます。


(写真・映画「沈黙を破る・Part2」より)

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