2021年7月4日
NHK・ETV特集「こころの時代」、「あなたを知ってしまったから」を観た。
一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人の稲葉剛さんと連れ合いの小林美穂子さんの生き方と言葉を伝えるドキュメンタリー。
〈小林美穂子〉
「『命の重さは平等である』とよく言いますよね。『地球より重い』と言った人もいましたね。すごい詭弁だと思うんですよ。『ほんとによく言うよ』って思うほどに、人の値段は違う。ほんとに怒りしか覚えませんけども、人の値段は違って、この国では、とても裕福で、発言権もあって、誰でも話を聞いてくれる人の命はとても重くて大切に扱わるんですけど、ホームレスだったり、外国籍であったり、ネットカフェで生活する人だったりとか、あと人が馬鹿にするような職業についている人だったり、そういう人たちの命ってすごく軽いんですよ。そういう人は人知れず死んでいても、もしかしたらあなたの隣で死んでいても、それは大したことないロスになっているような気がするんですよね」
「結局、知らないということは、相手の存在をすごく軽くしてしまう。何かあってもそんなに気にならない相手にしてしまうんだと思うんですよね。
路上生活をしていた人と一括りにされてしまう人たちではありますけども、長くつきあってみると、どんな幼少時代があって、どんないたずらをして青春時代を送って、上京してきて、何を夢みて、失敗してということをだんだん、ゆっくりゆっくり知っていくんですね。そうすると、他人とは全然違うふうな見方をするようになってくるんですけど。なので、いろんな人に、自分とは異なる人に出会ってもらいたい、知ってもらいたいなあというのを、それはずっと考えて発信をしています。
人は働こうが働くまいが、存在するだけですごく相互に作用する、いろんな人に作用していてもんなんですね。それは私がここで体験していることなんですけど、生活保護を利用して生きていて、生産性という意味では特に貢献していないのかもしれなんですけど、でもその人がいると、私がすごく楽しかっただとか、私がすごくしょげたりしているときにすごく励ましてくれていたりとか、その人が元気でいるのを見るだけで、周りの人がすごく励まされたりするとか。人は生きているだけで、存在するだけで、いろんなものに左右する、いろんな人に影響を与えるものだと、私は体感として感じているんですね。なので『生産性があること』って言うんのでなくって、それを言い始めると、自分が将来、働けなくなったときに、あなた淘汰されますよと思うんですよね。
そうじゃなくて、自分がどんな状態であろうと、元気があろうとなかろうと、みんながいっしょに尊厳をもちながら生活できるような、そんな社会を模索する選択肢はないんですかというのをずっと問い続けて生きたいです」
〈稲葉剛〉
「貧困状態に陥って路上で孤独に亡くなった方、その人にとって私たちの社会はどうやってきたんだろうということを常に考えるんですね。助けを求めても得られずに独り路上で亡くなっていった方にとって、私たちの社会はほんとに何もできなかった。私を含めてですけど。
私たちはその人のご冥福を祈る、安らかに眠ってほしいと祈るんだけども、実際は、そんな生易しいものではなかったんだろうなとも感じるんですね。そのことを想うと、いくら社会の仕組みが整っていって、路上から抜け出す人が増えたとしても、その奪われた命は取り返せない。そこでその人が独りで亡くなっていった、誰からも支援されず亡くなっていったという事実自体は消えないわけですよ。その事実は消えないということを、たぶん私は覚えていないといけない。私はそれを見てしまった。それを伝えていく責任というのはあるだろうし、またそれが繰り返されないために動き続けないといけないという意識は持っていますね」
「自分の“生産性”」「自分が生きている意味、価値」がわからなくなり、思い悩み続ける私自身の胸に、二人の言葉と生き方が突き刺さった。人生残り少なくなった今、私は二人に改めて「お前はどう生きてきたんだ?これからどう生きるんだ?」と問われた気がする。
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