Webコラム

日々の雑感 407:山形国際ドキュメンタリー映画祭2021
評4『私を見守って』/『ナイト・ショット』

2021年10月17日

私を見守って/Watch Over Me

 「ニューデリーで在宅緩和ケアに勤しむ3人の女性チーム。医師、看護師、カウンセラーとして患者の尊厳に向き合い、家族の悲しみに寄り添う。かけがえのない最期の日々がモノクロームのやわらかな光で綴られている」(パンフレット「解説」)

 私はこの映画を観ながら、この現場が「インドのニューデリー」であることをふと忘れてしまった。ここで描かれている現実が、まさに私自身の身辺でもこれまで起こってきたし、今も現在進行形で起こっている、人間にとって普遍的なテーマであるからだ。

 死と向き合うがん患者たちやその家族へのこの医師、看護師、カウンセラーの向き合い方、その言動がなんと優しく、美しいことか。ファリーダ・パチャ監督は彼女たちの活動を「その思いやりある気持ちと自分たちのもつ専門技術、自分たちの投じるその時間をもって、患者本人とその家族が来るべき事態に向けた精神的かつ情緒的な備えをする手助けをし」「重責から目をそらすのではなく、それを分かち合うことによって彼らがしかと肯定するのは、私たちが人間であることそのものなのだ」と書いている(監督のことば)。

 この作品は、末期のがん患者とその家族、それと向き合う3人のチームが活動を通して、避けられない運命である“死”をめぐる人の“痛み”への共感、家族愛、そして人間の“尊厳”を静かに美しく謳いあげた映画である。登場する人たちの心情に寄り添うような音楽と、モノクロの風景映像がいい。

ナイト・ショット/Night Shot

 チリで、学生時代にレイプされた女性監督が「ナイト・モード撮影で言葉にならない旅を始め」「その到着地に観る者も共に立ち会う」と「解説」に書かれている。

 まずこの映画の映像があまりにひどすぎる。1時間20分も見続けるのは辛かった。こんな映像を「斬新」「前衛的」「シュール」などと評する人もいるかもしれない。レイプされた女性のその深い心の傷は「言葉にならない」ために、こういう映像で表現せざるをえなかったと監督は言うのかもしれない。しかし私には、この意味不明な映像で「レイプされた女性のその深い心の傷」が観客に伝えられるとはとても思えない。

 「レイプ事件」という深刻で重大な問題と、その被害者の深く傷ついた心理を観る者にきちん伝えたいのなら、事件の経緯をテロップだけで、理解しがたい自己陶酔的にも見える映像に被せて伝えるのではなく、しっかりと観る者の心に届く映像と語りで伝えるべきだったのではないか。私がドキュメンタリー映画の評価の基準の一つにしている“伝える”という視点からすれば、完全に“アウト”。だからこの映画が「インターナショナル・コンペティション」部門に選ばれ、しかも「優秀賞」の一つに選ばれたことが私にはまったく理解できない。

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