(「Webコラム」では、読者の方々のご意見、ご感想のメールを募集しています。よろしくお願いします)
1月25日(木)
この「日々の雑感」を書き始めて3週間が過ぎた。「自分が日々生きている軌跡を残すために、その時々の思いを記録する――つまり自分自身のために書く」と自分に言い聞かせて始めた。しかし“ものを伝える”ことを生業としている以上、やはり「自分の日々の行動を羅列するだけの日記」ではつまらない。やはり社会に伝えるに値するテーマと内容の日誌に――と欲が出て、他の人たちに読んでもらうことを前提にした「コラム」としてホームページに掲載することした。元々、自分のために書いているのだから、反応がなくても構わないはずだが、やはり「自分の考えを、他の人はどう受け止めるだろうか」というのは気になる。まったく反応がないと、まるで糠(ぬか)に釘を打っているようで、淋しい。
そう思っている矢先、ある読者からメールが届いた。
「先日来、土井さんのコラムを読ませていただき、特に教育に関する内容のコラムに共感を覚えました。実は私は教師をしています。土井さんが指摘されているように、これまで政府や文部科学省が打ち出してきた政策や方針は、現場からはほど遠い机上の空論ばかりでした。全く現場のことや教育の主役である子供たちのことを考えていない冷たいものばかりでした。その時々の思いつきとしか考えられないようなご都合主義の政策や方針を打ち出して、現場や子供たちを振り回し混乱させるばかりでした。ただでさえ今の学校は閉鎖的かつ保守的で、狭い価値観で子供を縛り、同じ型に子供をはめようとする傾向が強いと思います。それが、今回の基本法改定でさらにその傾向が強くなるかと思うと、息が詰まりそうになり暗澹たる気持ちになります。
私は、中学校で障害のある(障害という言葉は嫌いなのですが)クラスを担当しています。だから、尚のこと個々の違いを認めず一律に同じ枠に当てはめようとし、個ではなく集団としてしか子供を見ない教育に強い抵抗を感じています。少数派やいわゆる社会的に弱い立場とされている人々が無視をされ、集団のために犠牲になる、目に見えない偏見や差別、もうこれは学校だけの問題ではなく社会全体の問題だと思います。権力や強い者に押さえつけられ、押しつぶされ、虐げられるのは、やはり少数派や弱い立場の人々です。
一体私たちはどうすればよいのでしょうか。現場の教師たちは、目の前のことで精一杯で基本法改定のことまで気が回りません。本当は一番の当事者である私たちなのですが、職場で基本法改定については、ほとんど話題にのぼりませんでした。無関心で何も知らず何も考えていない、その間にどんどん大切なことが悪い方に変えられてしまっている現実。今私が考えられる自分にできること、それは自分の受け持った子供たちの人権や個性を守り、彼らが彼ららしく生きていくための手助けをすること、ちっぽけな私にはこれぐらいのことしかできません。しかし、これも闘いなんです。学校という組織の中で、自分が正しいと信じたことを貫くことの難しさ、でもやらなきゃなと思っています。
しかし、教育のこともですが、憲法、福祉(障害者自立支援法など)、労働、そして自衛隊、日本はどうなってしまうのでしょう。危機感と焦燥感を強く感じる今日この頃です。
いろいろと思いがあふれて、支離滅裂な文章になってしまいました。長々とすみませんでした」
私の「日々の雑感」は“糠に釘”ではなかった。それぞれの現場で、はちきれんばかりの思いを抱えながら、孤独な闘いを続けている人たちが全国にいる。多数派の無関心な周囲のなかで不安と孤立感に悩みながらも、その一方で「自分は間違っていなはずだ」という小さな自信をしっかりと抱きしめながら、懸命に“自分の闘い”を続けている人たちである。この「日々の雑感」が、そんな人たちに「あなたは独りでないですよ」というメッセージを送る場の一つになればどんなに素晴らしいことか。私は先のメールをくださった読者の方(Aさん)に、こう返事を書いた。
「メールありがとうございました。拝読しました。
お便りを読みながら、私は以前、お話をうかがった東京の教師の方々、そして教師をしている知人の話とあまりにも共通点が多いのに驚いています。やはり、教育現場はどこでも同じような状況なんですね。そういう困難な状況の中でも闘っておられるAさんに深い敬意を抱きます。私たちジャーナリストの役割の1つは、全国のいろいろな現場で孤軍奮闘しておられる方々に『独りではないですよ』と伝えられるような、ネットワーク作りのお手伝いをすることかもしれません。 Aさんにお願いがあります。いただいたメールを、私のコラムの中に一部でも引用させていただけないでしょうか。Aさんのお便りに、『私だけじゃないんだ。闘っている人がここにおられる。自分もがんばらなければ』と励まされる方がたくさんいらっしゃると思います。Aさんのお便りをそういうふうに活用させていただけないでしょうか。
ご返事、お待ちします」
その翌日、Aさんからの返事が届いた。
「早速のご返信、ありがとうございました。今日、職場で基本法改定や再生会議のことについて、話題にしてみました。すると、個々の教師は、それぞれが関心を持ち、危機的な状況だと考えていることがわかりました。しかし、職場でそのことについて積極的に語り合われることはありません。また、いくら基本法改定や再生会議に対して、否定的で反対の立場を取っていたとしても(ほとんどの教員は、現場の状況とあまりにかけ離れている法律や政策に否定的です)、私たちは所詮は公務員で、上から言われたことには従うしかないというあきらめにも似たものが、個々の教員の胸の内にあるように思いました。おそらく、どうしてよいかわからず、大きな流れに翻弄され右往左往するしかないのだろうと思います。かくいう私もそうです。大きな力を前に、個人はあまりにも小さすぎます。だからといってあきらめたくない、自分の場所で自分のできることをやっていくしかない、そう思っています。
土井さんのメールを読ませていただき、考えました。私もじっと我慢するしかない多くの仲間の声がもっと聴きたい、思いを知りたいと思います。そして黙っていてはいけない、少しずつでも声を上げていかなければいけないと思いました。私のつたないメールの文章が役に立つのであれば、使ってください。よろしくお願い致します」
読者のみなさんに呼びかけます。それぞれの現場で闘っているあなたの“はちきれんばかりの思い”を聞かせてください。その声を、孤立しながらも同じように闘っている全国の“同志”たちに伝えてさせてください。この「日々の雑感」が、そういうネットワーク作りの場になればと願っています。
ご意見、ご感想は以下のアドレスまでお願いします。
連絡先:doitoshikuni@mail.goo.ne.jp
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