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日々の雑感 94:
『ルポ 貧困大国アメリカ』に映し出される日本社会(3)

 →『ルポ 貧困大国アメリカ』に映し出される日本社会(1) (2)

2008年5月28日(水)

 サイクロンで死者・行方不明者は13万人以上、被災者は250万人を超えるといわれるビルマ(ミャンマー)の軍事政権が、その国民の救済よりも、自分たちの権力・権益の死守を最優先させる姿勢に、私は「一体こんな為政者が支配する体制が『政府』とか『国家』とかいう名に値するのだろうか。『国家』とは『国民の生命・財産を守るもの』であるはずなのに」と書いた(ビルマのサイクロン災害と中国の大地震の報道に思うこと 1)。
 しかし、それはビルマに限ったことではなく、本来、「国家」とは、一部の権力者や富裕層の利益を守るための組織に過ぎないのではないか、私たちが思い描いてきた「国民の生命・財産を守るための国家」という「国家」像は“建前”“幻想”でしかないのではないか、本書、とりわけその第4章「出口をふさがれる若者たち」を読みながら、私はそんな思いに駆られた。

 2002年春、ブッシュ政権が新たに打ち出した教育改革法(「落ちこぼれゼロ法」)は、「高校中退が増加し、学力低下を是正するために、『競争』の導入などの手段で、国が教育を管理する」ことをめざした。その『競争』の具体的な手段が全国一斉学力テストの義務化であり、よい成績であればボーナスなどで優遇し、悪ければ教師の降格・免職、また補助金の削減で罰する、というのものだった。
 しかし著者は、「この法律の本当の目的は別のところにある」と指摘する教師の声を記している。それは生徒の個人情報の収集である。その教育改革の1項に「全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること、もし拒否したら助成金をカットする」とある。そして、これまで個人情報漏洩に敏感だったアメリカの学校が法成立後、その姿勢を崩したのは“格差”だというのだ。裕福な生徒が通う学校は、個人情報の提出を拒否し、軍のリクルーターたちの学校への立ち入りも拒絶できる。しかし貧しい地域の学校で、州からの助成金だけで運営しているところは選択肢がなく、生徒の個人情報を提出してしまう。
 軍のリクルーターたちは、その生徒のリストの中からなるべく貧しく将来の見通しが暗い生徒たちを選び、電話で直接勧誘する。
 その勧誘条件として、若者たちを最も引き付ける(入隊希望理由の8、9割を占める)は、「大学の学費免除」だという。しかし学費を受け取る際に義務付けられている前金の納付ができないため、実際、入隊後に大学の学費を受け取る兵士は全体の35%に過ぎない。また実際受け取る額は、契約のときに軍が約束する「最高5万ドル」よりはるかに低い「平均2万ドル弱」に過ぎないために、4年間の学費にはとても足りず、卒業できる兵士は15%に過ぎないというのだ。
 「学費免除」の次に多い入隊希望理由は「医療保険」。貧困地域の高校生たちは家族共々、ほとんどが「無保険」のため、入隊すれば本人も家族も兵士用の病院で治療が受けられるという条件はとても魅力的なのだ。しかし著者は、イラクで白血病を患い、帰国したある兵士の例を紹介している。彼は軍病院ですぐには治療を受けられず、結局、民間の病院で治療を受けざるをえなくなったが、「退役軍人」としての支援は得られず、多額な治療費で家族の生活が崩壊寸前に追い込まれた。
 その原因は、政府の退役軍人協会対象予算の削減だった。除隊した元将兵たちの責任を持つ「退役軍人協会」への予算を2003年から年間1億ドルずつ削減したため、医師、看護師、医療機器、薬が不足し、国中の帰還兵専用病院が次々と閉鎖され、治療が追いつかなくなったというのである。
 ある教師の次の言葉は、単にアメリカの現状として聞き流すわけにはいかない。日本の近い将来の教育現場、そしてそこを通過する若者たち、とりわけ現在の日本社会で急増している“ワーキングプア”の青年たちの行く末を想像させてしまう“空恐ろしい未来図”のように聞こえてならない。

 新自由主義を続けている政府は「落ちこぼれゼロ法案」を出した後、さらに2005年度に「低所得家庭児童向け医療保険基金」から11億ドルを削減しました。こうして広げられた格差によって、ますます多くの子どもたちの選択肢を狭められているんです。ワーキングプアの子どもたちが戦争に行くのは、この国のためでも正義のためでもありません、彼らは政府の市場原理に基づいた弱者切捨て政策により生存権をおびやかされ、お金のためにやむなく戦場へ行く道を選ばされるのです。

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