2014年10月11日12日「ガザの人権を考える」ラジ・スラーニ氏講演とガザ映画上映会

Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(22)ガザの瓦礫の中から発見されたソニー製品

2014年9月2日(火)


(写真:ガザの瓦礫の中で発見された兵器の部品に記された「SONY」)

 それは8月13日の朝、取材途中の車の中での通訳のアハマド(仮名)の一言から始まった。
 「ドイ、日本のソニー製品がイスラエル軍の兵器に使われていることを知っている?」
 「えっ?まさか!」
 「昨夜、ガザの女性記者がテレビ・ニュースで伝えているのをインターネットで見たんだよ」
 日本を代表する企業の1つソニーの製品が、パレスチナ人を殺戮するイスラエル軍の兵器に使用されている──もしそれが事実なら日本だけではなく世界中に影響を及ぼしかねない重大な問題だ。
 私はアハマドに、そのインターネットの映像を至急送るように依頼し、その女性記者と、彼女が示した兵器の部品が保管されている場所を探し出すように指示した。
 その夜、私はアハマドがインターネットで送ってきた女性記者のレポートを見た。その記者は「その兵器の残骸はF16のロケットの一部で、カメラが取り付けられている部分にソニーの製品が使われていて、そのカメラからの情報で標的を識別し、パレスチナ人が攻撃されている」といった内容を伝えていた。それがほんとうにソニーの製品なのかどうか、自分の眼で確認するまで確信はできないが、とにかくそういうニュースがインターネットで流れていることだけでも、できるだけ早く日本に伝えなければと、私はそのニュース映像を私のフェイスブックで「シェア」した。

【ニュースビデオ】

PressTV News Videos: Sony technology found in an Israeli missile in Gaza

 そして翌日14日の朝、アハマドが「その兵器の部品はシェファ病院にあるようだ」という噂をつかんできた。私たちはさっそくシェファ病院に向かい、関係者に尋ねまわったが、まったく手がかりはつかめなかった。やはりあのニュースの事実関係を確認するのは簡単ではなさそうだと半ば諦めかけたとき、予想もしなかったことが起きた。
 私たちは正午前、漁民の取材のためガザ漁港に向かった。するとそこにあのニュースを発信したテレビ局の車がとまっていた。アハマドがそのスタッフたちに確認に行くと、そのスタッフの中にニュースでレポートしていたあの女性記者がいたのだ。英語が堪能な若い女性だった。
 私は彼女に言った。「私はあなたのレポートに日本人として衝撃を受けました。インタビューさせてくれませんか。ところであの武器の部品はどこにあるんですか?」
 すると女性記者は「私も日本に伝えてもらいたいと思っていましたから、喜んでインタビューを受けます。武器の部品は私が保存しています。それを持ってきますから1時間ほど待ってくれませんか」と答えた。
 そして1時間後、「Press TV」のガザ特派員ハラ・アルサファディ(23)は、現場で拾った兵器の部品を持って現れた。基盤は金属製でずしりと重い。その部品の頭部にはカメラが付いていて、それとつながる幾つかの電子ボードには確かに「SONY」「MADE IN JAPAN」の文字がある。



(写真:兵器の部品に記された「SONY」「MADE IN JAPAN」
(写真:「Press TV」ガザ特派員ハラ・アルサファディ)

(Q・いつ、どこで拾ったんですか)

 「ハンユニス市東部のフザー村で破壊と虐殺が起こってから最初の休戦の2日目でした。私はフザー村の破壊された家の中を取材していました。その時、この部品を見つけたんです。私はパレスチナ人として、とても驚きました。ビデオカメラやテレビなどでソニーのことはパレスチナ人もよく知っています。しかも日本はパレスチナ人のためにUNRWA学校を建ててくれたり、さまざまな支援をしてくれたので、パレスチナ人は日本に対してとても好感をもっています。私もそうでした。だから武器の一部が日本のソニー製品だと知ったとき、強い衝撃受けたんです。イスラエル軍の武器の部品が日本から来ているなんて思いもしませんでした。ごらんのように部品のカメラなどすべての部分がソニー製の電子ボードにつながっています」

 「私は武器の専門家ではないので、これがイスラエルのロケットの部品なのか、無人偵察・攻撃機『ドローン』の部品か識別できません。でも武器に詳しい人の話では、これがインターネットにつながるシステムになっていること、データーディスクが挿入できるようになっていること、またカメラを備えていることなどから、ドローンの部品ではないかと言うのです。ドローンは装備されたカメラで地上のどんな物体でも正確に捉え、その情報をインターネットで地上に送信し、標的を見つけたら、ドローンに装備されているミサイルで攻撃します。このドローンによってたくさんの家屋が攻撃され、また多くのパレスチナ人が殺され負傷させられました。またドローンが送ってくる情報を元に、その直後にF16戦闘機が爆撃を開始します」

(Q・なぜこの部品を現場で拾ったんですか?)

 「私が拾ったのはこれだけではありません。武装勢力の基地などではなく、一般住民の破壊された家から出てきたものを拾います。イスラエル軍は武装勢力だけを標的にしていると主張しますが、実際はそうではないことを示すためにです。ただ私がこれを拾ったのは、ソニー製品でできていることがわかり、衝撃を受けたからです。あなたが使っているカメラもソニー製だけど、ソニーはカメラだけではなく、パレスチナ人を殺戮する武器の一部も生産しているということです。
 ソニーはこの部品がガザで住民によって発見されると思ってもいなかったでしょう。これが発見されたということは他にもソニー製品の部品が使われている武器があるはずです」
 「私がこれを日本に伝えてほしいのは、日本人がこの事実を知って、これを止めるために行動を起こしてほしいと願うからです。こんなことがガザで起こらないようにソニーに圧力をかけてほしいのです。これがパレスチナ人に敵対することであることを知ってほしいのです」

 私は彼女へのインタビューと武器の部品の映像を、パレスチナ人権センターのラジ・スラーニ代表に見てもらい、意見を聞いた。スラーニ代表は、「これはドローンではなく、ドローンやアパッチ武装ヘリコプターまたはF16戦闘機から発射されたスマート・ミサイル(標的を追撃するためにカメラとコンピューターを備えたミサイル)の一部ではないか」と言った。

 私自身はハラ・アルサファディ記者に直接、兵器の部品を見せてもらうまで、「ガザで使用されたイスラエル軍の兵器の一部と思われる部品にソニー製品が使われている」ことが信じられなかった。しかし、実際、実物を見せてもらい、「SONY」「MADE IN JAPAN」の文字をこの眼で確認したとき、もう疑いようがなかった。
 しかし軍事部門にはまったく素人の私には、この部品がどういう兵器の一部なのかまったく識別できない。ただ、この件について私が問い合わせた日本の友人の情報によれば、ソニー製品が誘導ミサイルなどに使用されていることは、その業界ではすでにかなり知られているということだった。友人からの情報を総合すると、ソニーのCCDイメージセンサ(ビデオカメラ、デジタルカメラ、光検出器などに使われる製品)は、以前からアメリカなど世界各地で兵器に組み込まれているものの、CCDはいわゆる「民生品・汎用品」であるとされ、武器禁輸の規制対象とはなっていないというのである。
 また、アメリカ製のTV誘導方式空対地ミサイルAGM-65Aマーベリックには、ミサイルを誘導するためのシステムにソニー製品が採用されていると言われている。ウィキペディアの説明では「ベトナムで数発が試験使用されて予想以上の命中率を示した。好成績を収めたAGM-65Aは、1973年に勃発した第四次中東戦争でイスラエル国防軍に供与され、80%の命中率を記録した」とされている。
 一方、日本の技術・製品の軍事転用を扱ったNHK「クローズアップ現代」(2014年4月9日放映)には、ドローンを製造するイスラエルの軍需企業「エルビット・システムズ」の副社長が登場し、ドローンに搭載されたカメラがアップで映し出された。このカメラがソニー製のCCDカメラである可能性は低くはないという指摘もあるが、その確証はないので、今後、軍事専門家や軍事ジャーナリストらによる詳しい調査・取材を待たなければならない。もしそれがソニー製のCCDカメラだとすれば、発見された部品がドローンの一部かもしれないというアルサファディ記者の推測は的外れではないことになる。
 この番組の中でエラド・アーロンソン副社長は、「センサー、光学機器、通信器、日本の可能性は無限です。パワフルな産業力を持っていますから」と語っている。瓦礫の中から発見されたソニー製の部品の取材した直後に改めてこの発言を聞くと、「自社が製造する兵器に今後、積極的に日本製品を取り入れていく」、または、「すでに取り入れている」と示唆しているように私には聞こえてならない。(現在でもインターネットでその番組の一部を観ることができる。クローズアップ現代:2014年4月9日放映・日本の技術はどこへ ~拡がる“軍事”転用~ →放送のテキスト化・放送まるごとチェック

 今の段階で、私が確実に言えることは、「イスラエル軍の砲爆撃によって多く住居が破壊され住民が殺害されたフザー村の破壊跡で、パレスチナ人ジャーナリストが、イスラエル軍が使用した兵器の一部と思われる部品を見つけ、そこには『SONY』『MADE IN JAPAN』という文字が明記されていた」ということだ。

 この件はとりわけ私たち日本人にとって重大で、微妙な問題である。だからこの記事の公開は、自分で確認できた事実とそうでないことをきちんと峻別し、これまでの私のコラム以上に公開には慎重でなければならないと思い直し、8月15日に一旦、FBに公開した記事をすぐに消去した(一部の人が推測していたような「外部からのもの凄い圧力や脅迫」があったからではない)。そしてこの件に関してさらに情報を集め、周囲の人たちの意見を聞いてきた。その結果、今の段階で私に書けることは、上記のことだけだ。
 一方で、「ガザで使われたイスラエルの兵器にソニー製品が使用されている」というハラ・アルサファディ記者のニュース・レポートは、インターネットによって世界中に広がりつつある。

 この「ガザで発見されたソニー製品」の件に関して、私が最も重要だと思うのは、「ソニー製品が使われた部品がミサイルの一部か、ドローンの一部か」といった議論や検証ではなく、「兵器の一部と思われる部品が、イスラエル軍に破壊された村の瓦礫の中から発見され、それが日本のソニー製品だった」という事実を、ガザのパレスチナ人がどう受け止めるか、ということだ。
 部品を発見したアルサファディ記者の前述した言葉は、パレスチナ人の反応を象徴する一例だ。
 「私はパレスチナ人としてとても驚きました。ビデオカメラやテレビなどでソニーのことはパレスチナ人もよく知っています。しかも日本はパレスチナ人のためにUNRWA学校を建ててくれたり、さまざまな支援をしてくれたので、パレスチナ人は日本に対してとても好感をもっています。私もそうでした。だから武器の一部が日本のソニー製品だと知ったとき、強い衝撃受けたんです。イスラエル軍の武器の部品が日本から来ているなんて思いもしませんでした

 「私がこれを拾ったのは、ソニー製品でできていることがとわかり衝撃を受けたからです。あなたが使っているカメラもソニー製だけど、ソニーはカメラだけではなく、パレスチナ人を殺戮する武器の一部も生産しているということです」

 またパレスチナ人権センターのラジ・スラーニ代表は、この事実を知って私にこう語った。
 「イスラエルは今回の攻撃でガザ地区を新兵器の“実験場”にしている。ソニー製品がその武器に使われているとしたら、ソニーはガザでパレスチナ人の殺戮と兵器実験に加担しているということになる」
 つまりこの問題は、今後、パレスチナ人の“日本・日本人観”を「友好国だったはずの日本と日本人が、パレスチナ人の加害者になった」と180度転換させてしまいかねないのである。

 ハラ・アルサファディ記者のュース・レポートは、すでに世界で大きな反響を呼んでいるが、もし今後、「アルジャジーラ」などアラブ世界のメディアや欧米の主要メディアまでもがこの問題に注目し報じ始めたら、「世界のソニー」の企業イメージは測り知れないほど大きな打撃を受けることになるだろうし、アラブ世界をはじめ世界各地でソニー製品へのボイコット運動に発展する可能性もある。ガザ史上前例のないイスラエル軍による破壊と殺戮に世界中が注視している現在なら、なおさらである。
 発見された部品はすでにアルサファディ記者の手を離れ、ガザの警察当局に引き渡されたという。そこで武器の専門家による詳しい検証が行われ、実際、それがどういう武器の一部かが明らかにされるだろう。

2014年10月11日12日「ガザの人権を考える」ラジ・スラーニ氏講演とガザ映画上映会

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