作品紹介
1991年、ビルマ(ミャンマー)軍事政権の弾圧を逃れ、妻を祖国に残し日本に渡ったビルマ人青年チョウチョウソー(チョウ)。生きるためにレストランで働きながら、祖国で封じられた民主化運動を続ける日々。その後、妻ヌエヌエチョウとの再会がやっと叶い、ビルマ料理店を経営しながら、日本での2人の亡命生活が始まる。第三国でやっと実現した14年ぶりの老父との再会。しかしその父の死の報にもチョウは帰国できなかった。日本滞在はすでに20年以上になり、暮らしも安定した。しかしそこはチョウにとって将来の保障もなく、祖国に貢献する役割も担えない“異国”であり、“自分の居場所”ではない。「家族に会いたい」「祖国で暮らしたい」という願いと、“祖国の民主化運動”のためにその望郷の想いを捨てなければならないという思い。その狭間で揺れ、迷ってきたチョウは、今の祖国の「民主化」をどう捉え、その中でどう生きようとするのか。
2009年度キネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位に輝いた『沈黙を破る』、2012年度のベスト・テンで第2位を獲得した『“私”を生きる』の土井敏邦監督が、在日ビルマ人青年を14年の歳月をかけて追い続けたドキュメンタリー映画である。
社会の中に自分の生きる道、幸せを模索するビルマ人青年のその姿は、個人と社会の接点を見失い、自己とその周囲の中に幸せを模索する私たち日本人の姿をあぶり出す。さらに愛する“国”とは“国家”なのか、“故郷”なのか、それとも“大切な人”なのか。彼らの生き方が「愛国心」の真の意味を日本人に問う。
あなたが守りたいものは何ですか?
“国”ですか?
大切な人?
それとも夢?
作品データ
『異国に生きる』
日本の中のビルマ人
2012年/日本/日本語・ビルマ語・英語/100分
監督・製作:土井敏邦
撮影・編集:土井敏邦/横井朋広
整音:藤口諒太
写真撮影・デザイン:野田雅也
配給:浦安ドキュメンタリーオフィス
監督のことば
なぜ「在日ビルマ人」なのか
長年、パレスチナを追いかけてきた私が、「在日ビルマ人」を追うことを思い立ったのは、1988年8月のビルマ民主化運動から10周年迎える1998年の夏だった。遠い異国・日本で祖国の民主化のために闘い続けている青年たちの姿に、私はイスラエルの占領下で解放のために闘うパレスチナの青年たちの姿を重ね合わせていた。彼らを支援するNGO「ビルマ市民フォーラム」から紹介された民主化活動家の1人が、チョウチョウソー(チョウ)だった。
日本でのチョウの生活を追うちに、私が何よりも驚き、心を揺り動かされたのは、その生き方の“真っすぐさ”だった。チョウは私のインタビューの中でこう語っている。
「家族や妻に再会するために、なぜ祖国に帰れないのか。私は自分のためだけに生きることもできます。家族のことだけを考えて生きることもできます。日本でただ働いて、お金を貯めて帰国すればいいのです。でも私にはそんな生き方はできないんです。私にとって、とても大切なことは“他人の痛みを感じる取ること”です。私はお金持ちになれるし、自由になることもできます。でもビルマで暮らす同胞たちは自由も豊かさもありません。私だけ、そのチャンスを独り占めすることはできません」
その言葉は、イスラエル占領からの解放闘争に参加し、貴重な青春・青年期の十数年を獄中で過ごした後、やっと釈放されたパレスチナ人青年が語った言葉と驚くほど重なりあっていた。私のインタビューに答えて、その青年はこう言った。
「大切な青春時代を獄中で過ごさなければならなかったことを後悔していないかって? とんでもない。自分がパレスチナの解放のために闘い、自己犠牲したことを誇りに思っています。私の家族もそうです。パレスチナ人として最高の青春時代だったと思います。私の幸せは、私が暮らす社会の中にあるんです」
両者に共通するのは“志”の高さとそれを貫く“純粋さ”であり、そして“社会と個人との距離の近さ・関係の深さ”だった。つまり自分の生き方がその社会と密接に重なり、絡み合っているのである。独裁政権下、占領下という過酷な状況がそうさせるのか、それともビルマやパレスチナが伝統的に育んできた文化、精神的な“土壌”がそういう人生観・価値観を生むのだろうか。そんな彼らの存在は、若者たちが自分の周囲10メートルのことにしか関心を持たなくなったと言われる日本社会の現状の中では、とりわけ新鮮だった。
しかし異国で生きる現実は厳しい。妻や肉親たちとの別れ、政治難民として異国・日本で生きるための闘い、日本政府の「難民政策」という厚い壁、そして終わりの見えない異国での民主化運動の闘い……。その中でチョウは揺れ、迷い、苦悩しながら、20年以上も異国・日本で生きてきた。その姿は、私たちに日本人に、「社会の『幸せ』を願う“志”と個人の『幸せ』のどちらを優先させるのか」「家族とは何か」「守るべき“国”とは何か」「『愛国』とは何か」そして「“生きる”とはどういうことか」という普遍的なテーマを、私たち日本人に突き付けている。この映画は単に、「在日ビルマ人の民主化活動家の記録」ではない。私たち日本人が自身の“生き方”“在り方”を映し出し、自らに問いかける“映し鏡”なのである。
土井敏邦
監督・土井敏邦プロフィール
どい・としくに
1953年佐賀県生まれ
ジャーナリスト
1985年以来、パレスチナをはじめ各地を取材。1993年よりビデオ・ジャーナリストとしての活動も開始し、パレスチナやアジアに関するドキュメンタリーを制作、テレビ各局で放映される。2005年に『ファルージャ 2004年4月』、2009年には『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その第4部『沈黙を破る』は劇場公開され、2009年度キネマ旬報ベスト・テンの文化映画部門で第1位、石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。2012年1月公開の『“私”を生きる』(2010年)では、2012年度キネマ旬報ベスト・テン文化映画部門で第2位。本作が劇場公開3作品目となる。
その他、東日本大震災後に制作された『飯舘村 第一章・故郷を追われる村人たち』(2012年)で「ゆふいん文化・記録映画祭・第5回松川賞」を受賞。続編となる最新作『飯舘村 ─放射能と帰村─』は2013年5月初旬公開予定。現在、『ガザに生きる』全5部作を制作中。主な著書に『アメリカのユダヤ人』、『沈黙を破る─元イスラエル軍将兵が語る“占領”─』(いずれも岩波書店)など。
土井敏邦 Webサイト
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「文化庁映画賞 文化記録映画優秀賞」を受賞しました。
上映終了
- 【東京】2013年3月30日~4月25日 ポレポレ東中野
- 【札幌】2013年5月7日~20日 蠍座
- 【広島】2013年6月8日~21日 横川シネマ
- 【大阪】2013年6月15日~28日 第七藝術劇場
- 【神奈川】2013年6月29日~7月12日 横浜ニューテアトル
- 【兵庫】2013年7月12日~16日 神戸映画資料館
- 【愛知】2013年8月17日~23日 名古屋シネマテーク
- 【佐賀】2013年8月31日~9月6日 シアターシエマ
- 【新潟】2013年9月14日 ながおか映画祭
- 【東京】2013年10月3日、10月5日 UNHCR難民映画祭
- 【東京】10月20日 シネマート六本木(文化庁映画賞受賞記念上映会)
- 【東京】2013年10月20日 HAPON新宿(難民を学ぶ夕べ特別上映会)
- 【千葉】2013年11月8日 千葉市生涯学習センターホール 主催:マルハバ!サラム
- 【神奈川】2013年12月15日 あーすぷらざ5階映像ホール
- 【東京】2013年12月30日/2014年1月7日/8日/24日 渋谷アップリンク
- 【東京】2014年1月15日 武蔵野スイングホール 主催:ボランティアステーション
- 【東京】2014年1月26日 板橋区立グリーンホール601会議室
主催:NPO法人 高島平ACT/NPO法人 ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY(APFS)
- 【東京】2014年4月21日 下高井戸シネマ
- 【東京】2014年7月19日 練馬区立南田中図書館
- 【東京】2014年12月13日 デロイトトーマツコンサルティング株式会社
主催:国連フォーラム ミャンマー・スタディー・プログラム
- 【神奈川】2016年7月17日 横浜シネマリン
「ハマのドキュメンタリー映画作家たち」での上映
- 【神奈川】2016年11月12日 鎌倉生涯学習センター(きらら鎌倉)ホール
主催:アムネスティ・インターナショナル鎌倉グループ
終了イベント・ポレポレ東中野
- 3月30日(土)初日舞台挨拶
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- 12:40の回上映後 チョウチョウソーさん、ヌエヌエチョウさん(本作出演)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 チョウチョウソーさん、土井敏邦監督
- 17:20の回上映前 土井敏邦監督
- 初日(3/30)来場特典!
ご来場された方先着で、ビルマ産のオリジナル記念品をプレゼント!
- 3月31日(日)
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- 12:40の回上映後 チョウチョウソーさん、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 田辺寿夫さん(ジャーナリスト)
- 17:20の回上映前 土井敏邦監督
- 4月6日(土)
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- 12:40の回上映後 チョウチョウソーさん、渡邉彰悟さん(弁護士・本作出演)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 土井敏邦監督
- 4月7日(日)
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- 12:40の回上映後 根本敬さん(上智大学教授)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 辛淑玉さん(人材育成コンサルタント)、土井敏邦監督
- 4月13日(土)
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- 12:40の回上映後 根本かおるさん(ジャーナリスト)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映前 土井敏邦監督
- 4月14日(日)
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- 12:40の回上映後 稲葉剛さん(もやい代表理事)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 チョウチョウソーさん、土井敏邦監督
- 4月20日(土)
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- 12:40の回上映後 飯田基晴さん(映画監督)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 土井敏邦監督
- 4月21日(日)
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- 12:40の回上映後 大野更紗さん(作家・「困っている人」著者)、土井敏邦監督
- 15:00の回上映後 チョウチョウソーさん、田辺寿夫さん、土井敏邦監督
DVD販売
価格:
【個人】3700円
【団体】9,259円(10人未満の上映権込み)
- 10人以上での上映の場合は 自主上映 扱いとなります。
注文→土井敏邦オンライン・ショップ
委託販売
イベントや店頭などでDVDを販売していただける方を募集しています。
メールにてご連絡くだされば、価格や発送方法など詳しいことをお知らせいたします。
委託販売の問い合わせ: doitoshikuni@mail.goo.ne.jp
Life on Foreign Land
: Burmese in Japan
What do you want to protect?
Your country?
Your loved ones?
Or your dream?
He lives in a foreign land far from home. For whom and for what? What is most important in life? A 14-year record of a young Burmese man’s life in Tokyo. To escape the oppressive military regime in Burma (Myanmar), a young Burmese man named Kyaw Kyaw Soe fled to Japan in 1991, leaving his wife behind in his motherland. He spends his days working in a restaurant to make a living and continuing his pro-democracy activities that were banned in Burma. Later, his wife is able to join him in Japan, and the two of them run a Burmese restaurant. Thus begins their new life together in exile. Living in Japan for more than 20 years, Kyaw Kyaw Soe is caught between the wish to be with his family in his own country and the desire to see democracy in his homeland. In this foreign land, the future holds no guarantees, and it is not home. This documentary covers 14 years of Kyaw Kyaw Soe’ s life as a Burmese pro-democracy activist in Japan.
Director & Producer Doi Toshikuni
100min/2013/Japan