Webコラム

日々の雑感 417:
ジャーナリスト・金平茂紀という存在

2022年10月3日

 9月24日を最後に「報道特集」のメインキャスター、金平茂紀さんが番組を降板し、昨日10月1日、初めて金平さんのいない「報道特集」を観た。内容は、「旧・統一教会」信者の家庭崩壊などこれまでと同様、他の報道番組の追随を許さない見応えのあるスクープだった。番組を作り支えている優秀なTBSスタッフたちの底力は健在だ。しかし冒頭の金平さんのあの鋭い辛口の時評コメントが消え、特集放映直後の、観る人を「なるほど」「よく言ってくれた」と思わずうなずかせる、あの金平コメント(私は「金平節」と呼んでいた)はもう聞けない。
 ジャーナリストはやはり、さまざまな現場を渡り歩き、現場をその目で目撃し、そこで生きる人々と出会い、驚嘆し、怒りに震え、喜び、泣き、そういう数知れない、長く深い体験のなかで、やっと自分なりの“視点”“思想”が培われていくと私は信じている。金平さんのジャーナリストとしてのあの鋭さは、TBS記者として数十年、震災などさまざまな災害現場、数知れない政治家や要人たちへのインタビュー、海外各地の戦場取材、さらにモスクワ支局長としてのソ連崩壊という歴史的事件の現場取材、ワシントン支局長としてイラク戦争の取材体験、さらに長い「筑紫哲也 NEWS23」編集長として「大ジャーナリスト・筑紫哲也」からの薫陶……、組織ジャーナリストとしてこれほどの恵まれたキャリアを持つ人はおそらく他にいないだろう。そういう意味でも、金平さんは日本で稀有で、貴重なジャーナリストである。
 金平さんと同じ1953年生まれの私は、彼とは対照的に、陽の当たらない地味な道を細々と歩いているフリージャーナリストだが、同世代の“輝くジャーナリスト”は私の“道しるべ”でもあった。毎週、「報道特集」を録画し、コマーシャルを飛ばして毎回逃さずに番組を観る一“大ファン”だった。「同世代の金平さんがあんなにがんばっているのに、お前は何をしているんだ!」といつも自分を鼓舞する、そんなかけがえのない貴重な番組だった。
 私にとってそんな“目標のジャーナリスト”である金平さんと一度だけ身近に接する機会があった。イスラエルによるパレスチナ(ヨルダン川西岸、ガザ地区、東エルサレム)占領から50周年に当たる2017年、私が最も尊敬するジャーナリストの一人、イスラエル『ハアレツ』紙の「占領地」特派員、アミラ・ハス氏を日本に招聘したとき、その対談相手として選んだのが、金平さんだった。私が憧れる二人のジャーナリストが演壇に並ぶ姿を、私は生涯忘れないだろう。
 「報道特集」の中で、臆せず堂々と為政者たち、権力者たちを糾弾する金平さんの存在は、いつも為政者たちの目の色を伺うTBS幹部たちにとって、ハラハラさせられる、できれば消えてほしい、煙たい存在だったに違いない。やっと「金平キャスター」を降板させることに成功した幹部たちはほっと胸を撫でおろしているかもしれない。
 しかし「ジャーナリスト・金平茂紀」は、これからTBSの「報道特集」という狭い枠から飛び出し、日本のジャーナリズム全体をけん引する存在としての新たなジャーナリスト活動を開始するにちがいない。私は今後も、自分を鼓舞する存在として、そういう金平茂紀さんの活躍を注視していきたい。

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