2022年11月23日
新宿 K's Cinema アフタートークより
ねぎしとしえさん。俳優。出演作、多数。公式Facebook
(土井敏邦)「土井の映画にどうして根岸季衣さんがゲストで来られるんだ?」と疑問に思われる方もいるでしょう。
私が14年前に「沈黙を破る」(岩波書店) を出版したとき、この本を読んでくださった女優の渡辺えりさんが、「非戦を選ぶ演劇人の会」(イラク戦争を機に発足した演劇人の会で、毎年夏、平和に関する朗読劇を開いた)でパレスチナ問題を取り上げるために、私をゲストで呼んでくださった。その時にこの会で活動されていた根岸さんとお話しをさせていただいたのがきっかけでした。
もう一つは、私の連れ合いが、根岸さんと、脚本家の篠原久美子さんと3人で、福島の子どもたちを支援する会(「福島っ子 ドラマのひろば」)をやっていることもあり、お付き合いをさせていただいている。この日はお住まいの熱海からわざわざかけつけてくださいました。
(根岸季衣さん)今日、劇場で観れてよかったです。先にDVDを送りましょうかとおっしゃっていただいたけど、やはりみなさんといっしょにこの時間を共有できてよかったです。
3時間ということでかなり覚悟はしていたんですけど、ほんとにあっという間でした。字幕を追いながら、心に刺さってきました。私なんかがおしゃべりできることはないので、少しでも土井さんを応援するかたちというのはこうやって登壇させていただくことぐらいしかありません。
先に土井さんに「知識もないし、信念もないし、たいしたことは言えないけど」と伝えたら、土井さんは「観たままのことを語ってくだされば」と言ってくださいました。
とにかく土井さんへの感謝ですね。普通、長さでめげると思うんですけどずっと観ることができました。長いまま、上映に漕ぎつけることはたいへんだと思うんですけど、やっていただいて、観てほんとうによかったなあと思いました。
前作の『沈黙を破る』のときは、とてもポジティブな気分になれたんですよ。「イスラエルの元兵士たちが自分の国で声を上げるようになったんだ、よかった」と。でも今回、この映画を観たら、あれから何年も経つのに、もっと時代が悪くなっています。
その上、今度はまったく報道されずに、ひどい状態が続いています。でも彼らの言葉の中に、例えば「種をまく」とか「人生の美しいもの」とか、ものすごく素晴らしい言葉がいっぱいあります。希望を捨ててはいけないと思います。
言葉から、感動を得ました。その人の品性のよさというか。インタビューだけだから、全部言葉なんだけど、あふれ出るものというのはこちらにも伝わってきます。それはきっと「やるべきこと」をやっているからなんですね。
土井さんが現地へ出発前に会ったときに、「僕は現地に行くと、元気をもらえるんですよ」とおっしゃったことが凄いなあと思ったんですけど。
そんな土井さんとあの元兵士がダブリました。普通の楽な生活もできるだろうにと。土井さんが元兵士に「どうして15年も続けられるんだ?」と聞いているその問いを、土井さんにそのままそう問いたいです。「遠い国」にずっと関わりあい続けている土井さんに逆に伺いたなあと思いました。
今回の作品には、あまり言葉としては出てきませんでしたが、いままでの土井さんのパレスチナの映画の中で、“尊厳”という言葉がすごくたくさん出てきていましたよね。今回は1回だけでしたが。いままでその“尊厳”という言葉がすごく突き刺さっています。「私はここを動かない」というプライド(尊厳)。「沈黙を破る」の人たちからも同じように、「倫理」という言葉がたくさん出てきましたが、それを守り続ける“尊厳”という言葉を第一に思う、その強さ。土井さんの他のパレスチナの映画を観た時に、その“尊厳”という言葉が強烈に残っていたんです。
今回はパレスチナ側というより、イスラエル側の証言をメインにしているので、やられている側をみるのはやはり痛々しいし、胸に迫ってくるけれども、それをしてしまった側の思いは、逆に日本の状況と近い。そういう意味では、自分たちが理解できることなので、パレスチナ側からだけ描いた映画以上に、突き刺さるものが多かったですね。
正直言って、私は「非戦を選ぶ演劇人の会」のリーディング(朗読)でパレスチナ問題を取り上げるまで、恥ずかしながら、まったく知らなかったんです。渡辺えりさんはとても問題意識が高い方で、最初からご存知なので、それを脚本に起こされる。それをリーディングしながらパレスチナのことを学んでいったんです。
その後に、土井さんが取材された証言集から引用した朗読で、私がパレスチナ人の女性の役をやらせていただたりというリーディングを通して、問題を身近に感じられるようになりました。
今日は天気も悪いし、土井さんも「長い映画なので、せっかく根岸さんがいらっしゃっても、人は入らないと思います」とおっしゃっていたんですが、これだけいらっしゃっていただけて、ほんとうにうれしいです。
私に何ができるのかといったら、広めることしかできません。こういう映画があるんだよというのを、SNSなどやっていらっしゃる人がいたら、感想などをどんどん書いたり、お友達に「3時間もあるんだけど、いい映画だよ」と広げていただいたて、観ていただく機会が広がればと思います。私たちにできることはまず知ること、それを人に伝えることと思うので、ぜひよろしくお願いいたします。
(Q・俳優という仕事で「演じる」ことで、自分自身が問われることはないですか?)
きっと、人間性というのは出てしまうものなんですね。昔は性格が悪くても、お芝居がうまければやっていけるかなあと思っていたけど、今は「やっぱりわかるな、これは。人の中にあるものが出ちゃうな」というふうに思いますね。この人はいい人だろうなあと思うと、その観方にあまり間違いがないなあという気がしますね。
(Q・役者さんがある役をやっていても、その地が出てしまうということですか?)
その役者さんを作っているベース、肉体はその人のものだから、どうしても出てくるんじゃないですかね。
(Q・この映画はパレスチナ・イスラエルの問題の映画だけではなく、私たちの問題の映画だと思っているのですが)
それは思い過ごしではないです。土井さんがずっと貫いてこられた思いというのが、彼らを通して、こちら側にいる土井さんが見えてくる。
土井さんは福島の映画を作っておられて、福島の人が言っておられたけど、「土井さんだとしゃべっちゃうのよ」。それはほんとうに聞いてくれているから。いろんな人が取材にきて、「おいしいところ」だけを撮りにくる人もいるし、それは聞かれる側もわかっている。土井さんのうなずきを心からしてくれていると、どんどんしゃべっちゃうのよねって。それはきっとイスラエル・パレスチナへ行っても、言葉を発しなくても相手側に伝わって、「この人だったら、これを広めてくれるだろう」という思いがある。だから美しい言葉がいっぱいあるというのは、聞く側の美しさも出ているんだと思います。
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