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【芸術選奨 文部科学大臣賞(映画部門)・受賞に際して】―支援者の方々へのご報告とお礼―

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ごあいさつ

 「芸術選奨 文部科学大臣賞(映画部門)」という思いも寄らない賞をいただくことになりました。
 吉永小百合さん、山田洋次さん、役所広司さんら、日本の映画界を代表する有名な方々が受賞されているこの賞に、無名のドキュメンタリー映画監督である私がなぜ選ばれたのか、まったくわかりませんでした。
 正直、最初は「詐欺かもしれない」と訝(いぶか)りました。まもなく、「受賞の手続きに必要なお金を振り込むように」と言ってくるに違いない、と思ったのです。やがて文化庁から、さまざまな書類が送られてきて、「どうも本物らしい」とわかってきても、どうしても腑に落ちなかったのです。

 「なぜ私なのか?」――ずっと考えていました。そして分かったことは、これは「土井敏邦」への賞ではなく、映画「津島―福島は語る・第二章―」に対する賞だということです。

 文化庁から送られてきた「贈賞理由」にはこう書いてありました。

 「大震災時の原発事故で、大量の放射性物質が降り注ぎ、100年は帰還困難と言われた福島県東部・津島の人々の記憶と感情を長期に渡って誠実に取材し、全9章、3時間を超える圧巻の秀作『津島 福島は語る・第三章』に結実させた。災禍の時代の中で、日本と世界に通底する主題を見事に提示した。その功績に敬意を表したい。」

 しかし、この映画の力は、私の力ではありません。
ドキュメンタリー映画の“主役”は“作り手”の監督ではなく、映画に登場する人たちです。その人たちの姿と言葉を観客の前にそっと差し出す、つまり、私たちは“黒子の伝え手”です。

 2024年3月から全国で劇場公開したこの映画は、すでにご覧いただいたみなさんにはわかるように、「放射能汚染のために、故郷を追われ、共同体や家族をばらばらにされた津島の人たちが、故郷を奪われた悲しみ、悔しさ、無念さを切々と語る証言ドキュメンタリー」です。つまりこの映画の力は、登場する津島のみなさんの“言葉の力”です。
つまりこの賞は、映画に登場し懸命に語ってくださった津島のみなさん、そしてその背後にいらっしゃる、「ふるさとを返せ!」と裁判で闘っている他の津島のみなさんを顕彰する賞なのです。

 だから3月11日(奇しくもあの震災から14年目に当たります)の受賞式には、この映画の主人公の1人で、津島訴訟の原告団団長の今野秀則さん、そして原告のみなさんを無報酬で懸命に支える弁護団を代表して、共同代表の原和良 弁護士に参加していただき、いっしょに受賞させていただくことにしました。

 ただ申し訳ありませんが、いただく賞金は、現在、制作中の「福島は語る・第三章」の制作費と、私が34年間通い続けたガザへの支援金に使わせてください。

 映画制作に協力してくださった津島のみなさん、そしてこの映画の製作をクラウドファンディングで支えてくださったみなさんに、改めて深くお礼を申し上げます。

 ほんとうにありがとうございました。

2025年3月4日   土井敏邦